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育成進む女性のデジタル人材
生活に合わせた業務環境
長野・塩尻市
公明党は先の衆院選で、女性をデジタル人材として育成し、テレワーク就労や起業に結び付ける「女性デジタル人材育成10万人プラン」(仮称)を掲げた。デジタル人材不足の解消は、女性の雇用状況改善にもつながっていく。先行する長野県塩尻市の事例を紹介する。
市内の商業施設内にある共同利用オフィスで業務に取り組むKADO登録者=8日 長野・塩尻市
長野県塩尻市(人口約6万6000人)は、2010年から市と市振興公社が、テレワークによるひとり親向けの就労支援「KADO(カドー)」に取り組む。事業名には「家で働く」という意味を込めた。12年以降は子育て中の女性や介護者、障がい者など、時間的制約がある人にも支援対象を順次、広げている。
自分の好きな場所・時間で働くことができるのが最大のポイントだ。業務はデータ入力やウェブサイト制作など、パソコンを使った作業が中心。公社が企業や自治体から業務を受注し、KADO登録者の能力や希望に応じて仕事を割り振る。登録者はライフスタイルに合わせ、市内の商業施設内に整備された共同利用オフィスや自宅などで仕事ができる。
パソコンを使った作業が不慣れな人でも安心して始められるよう、研修体制も充実させている。業務はチームで取り組んでおり、取りまとめ役のディレクターが操作や仕事の進め方など不慣れな点をサポートする。公社テレワーク事業の柳澤佳子チーフマネージャーは、「最初は電源の入れ方すら分からなかった人も、仕事を継続できている」と強調する。
スキルアップも魅力の一つ
「都合の良い日、時間で自由に働けると知って始めた」。7年前にKADOに登録した女性はこう話す。出産後に再就職先を探したが、療育施設に通う自閉症の子どもがいるため、働ける時間が限られていた。悩んでいた矢先、市の事業と出合った。仕事を通じて「知らなかった知識やスキルを身に付けることができている」と手応えを語る。
将来のステップアップを見据えて登録した人も。6月に登録した女性は、大学院の受験をめざす。今年、結婚を機に市内へ移り住み、勉強しながらでも働けるKADOの存在に魅力を感じて申し込んだ。「勉強と仕事の両立ができる上、同世代の女性との交流もあってうれしい」と声を弾ませる。
就労人数、6年間で8倍増
受注額は年々拡大、新規事業にも貢献
市内にはオフィス機器や電子機器などを扱う製造業者が幾つもある。結婚を機に退職した女性が一定数おり、KADOが復職の受け皿となって、事業規模は年々、拡大している。
事業開始当初、年間200万円程度だった受注額は20年度には約2億円に拡大。20年度には子育て中の女性や障がい者ら約250人が働く。このうち9割が女性で、その半数は子育て中の母親だという。
30人程度だった14年度と比べると、ここで働く人は6年間で約8倍に増加した。市官民連携推進課の太田幸一課長補佐は、「事業の社会的意義が大きいことに加え、女性の復職支援体制を整えることができた結果」とみている。
KADOは、同市が展開する新規事業の支え手にもなっている。政府が進めるGIGAスクール構想では、小中学校で新たに導入されたタブレット端末の操作方法や、授業、教員のサポートをKADOが担う。市が20年度から始めた自動運転バスの実証実験に使用する地図データ作製も担当した。
今後の課題は、地域企業への就職や起業など登録者の一層の社会参画だ。「ICT(情報通信技術)に詳しい人材を育成し、地域の人手不足解消につなげていきたい」(太田課長補佐)と意気込む。
公明 雇用、人手不足の改善リード
政府は今年6月に決めた「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」で、女性のデジタル人材育成を支援する方針を発表した。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大が女性の就業や生活に深刻な影響を与えていることがあった。重点方針には、「地域女性活躍推進交付金」による女性のデジタル技能の学び直しや、再就職・転職への支援を盛り込んだ。
非正規雇用の女性らを支援するため、生活費を受給しながら無料で職業訓練が受けられる「求職者支援制度」では、デジタル分野の訓練コースを実施。定員増や訓練内容の多様化もめざす。
公明党は、デジタル分野の職業はパソコンと向き合う時間が長いため、肉体労働はほとんどなく勤務場所の制約も少ないことから、女性にとって比較的働きやすい職種であることに着目。10月12日の衆院代表質問で、石井啓一幹事長は、支援拡充と自治体への周知・活用を徹底し、「女性デジタル人材の育成に集中的に取り組むべきだ」と述べ、一層の施策の推進を訴えている。