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2019年1月19日

若者の政治参加 進めるには

スウェーデンの取り組みから 
静岡県立大学 両角達平 客員共同研究員に聞く

両角達平客員共同研究員

社会全体で主権者教育を

国政選挙では2016年参院選で初めて導入された「18歳選挙権」が4月の統一地方選でも適用される。青年層の低投票率が指摘される中、若者の投票率が8割に及んでいるスウェーデンの取り組みが注目されている。どう若者を政治に巻き込んでいるのか。静岡県立大学グローバル・スタディーズ研究センターの両角達平客員共同研究員に聞いた。

投票率“80%”の背景

日本とスウェーデンの年齢別投票率

民主主義育む余暇活動
全国民の2割参加 移民も交え多様な議論

――なぜ、日本では若者の投票率が低く、スウェーデンでは高いのか。

両角達平研究員 一般的に、豊かな先進国では、若者は政治に無関心でも生活できるので、社会参加に対し消極的になる。ただ、その中でも日本は若者の投票率が異様に低い。社会の成熟化に加え、日本の若者は忙しく、時間がないことが一因だろう。実際、東京都の選挙管理委員会によると、14年の衆院選挙で若者が投票を棄権した理由は「仕事が忙しく、時間がなかったから」が29.3%を占める。日本にいるスウェーデン人学生も「スウェーデン人はもっと暇だ」と言っている。

また、スウェーデンでは、学校や仕事と関係がない自由な時間が十分に確保され、多種多様な余暇活動が充実している。この余暇活動が、政治活動にも結び付いている。近年、スウェーデンの26歳以下世代の投票率はおおむね8割を維持している。

――スウェーデンの余暇活動の特徴は。

両角 余暇活動として、スウェーデンでは「スタディーサークル」と呼ばれる勉強会が活発だ。音楽や陶芸、読書会などテーマは幅広い。100年以上の歴史があり、3万のサークルに国民の5分の1となる180万人が参加している。

移民や難民の考え方も尊重され、そこで複数の人と議論することが民主主義の基盤を育む機能を担う。政党とつながっているサークルもあり、政治活動に転じることがあるのも大きな特徴だ。

国は、その活動費の6割を財政支援している。

――若者の政治参加を促す活動はあるか。

両角 政治に対する若者の影響力を高めるため、数多くの若者団体がある。特に「若者協議会」は自治体レベルで存在し、政治家と直接会って意見を交わすほか、新聞などメディアを通し、自分たちの意見を表明している。

スウェーデンには290の地方自治体があり、若者協議会は100団体ほど存在する。そのうちの一部をまとめるのが「全国若者協議会」で全国に点在する若者協議会の活動をサポート。400人規模の集会を年4回開催し、意見を政治に反映させる方法を伝えている。また全国若者協議会は若者政策を担当する大臣と年2回の対話会にも参加し、政策について直接意見を伝えることができる。

スウェーデンの子ども・若者白書によると、12年には若者協議会のように政治的な活動に参加している16~25歳の若者の割合は71%と高い。こうした活動をきっかけとして、実際に政治家になる若者もいる。

身近な若年議員

独自色出す政党青年部
選挙時は中高生も「模擬投票」

――政党青年部も活発に動いているようだが。

両角 スウェーデンのほとんどの政党に青年部があり、若手議員や党員らで構成されている。例えば、スウェーデンの第1党である社会民主労働党は、13~30歳であれば、基本的に誰でも青年党員になることができる。

興味深いのは党本部と青年部の政策内容が必ずしも一致していない点だ。青年部が主張したことで、生徒が学校を自由に選べるよう制度化した事例がある。単なる党の下部組織ではなく、いわば“独立”している。

――学校現場では。

両角 4年に1度の国政選挙が実施される時、多くの学校で日本の中高生に当たる生徒たちは「模擬投票」を行っている。実際の政党を書いて投票し、この流れを通じて、民主主義を学び実践するのだ。模擬投票に向けて、党幹部や政党青年部を学校に招き、活発にディスカッションを実施している。青年党員も参加するが、生徒にとっては同じ世代の青年党員が政策について熱く語ることが、とても刺激になる。

――日本で、若者の政治参加を促すためには。

両角 4月の統一地方選で18歳選挙権が適用されるが、現状では、学校教育の役割がますます重要になるだろう。

その上でスウェーデンのように社会全体が民主主義を育むためには、さまざまな活動に対し国の財政支援が必要だ。実際、スウェーデンの若者市民社会庁は14年、106の子ども・若者団体に30億円の助成を実施。全国若者協議会、模擬投票を行う学校、政党青年部にも財政支援を行っている。

現在、日本には30歳未満の国会議員がいない。一方で、スウェーデンでは選挙権と被選挙権が共に18歳であり、学校卒業後、友人が政治家になることは珍しくない。日本のように出馬の際に必要となる供託金はなく、仕事を兼務しながら政治家になることも可能。政治家になりやすい環境整備も日本の課題だ。

また、経済界における経団連のように、若者の声を政治に届ける機能も必要だ。日本でも若者団体が動き始めているが、政党として公明党が昨年12月から行っている政策アンケート「VOICE ACTION(ボイス・アクション)」は若者と政治を身近にする入り口としては、良い取り組みだ。こうした取り組みが広がれば、若者を政治に巻き込む“うねり”になるのではないか。

日本では…

県議が○×クイズで解説 群馬

選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことをきっかけに、日本でも若者の政治参加への意識を高めるための「主権者教育」を実践する学校が増えている。

群馬県では高校生に政治や議会を身近に感じてもらおうと、昨年1月から県内の公立高校に各党の県議が出向いて出張授業を行っている。

授業のネーミングは、「GACHi高校生×県議会議員~政治を知らなきゃソンをする!」。県議が「得票数が同じだった時は、クジ引きで当選者を決める。○か×か」などと選挙や議会の仕組みなどについて、○×のクイズ形式で解説したり、生徒と活発に意見交換を行う。今年度は8校で開かれ、約1000人の生徒が参加した。

授業を受けた生徒へのアンケートでは、「議員や県議会を身近に感じた」などと肯定的な回答が約9割に達したという。

架空の市長選、活発に論戦 長崎

長崎市では、模擬投票の充実に向けて、同市選挙管理委員会が長崎県弁護士会と協力。市立大浦中学校では昨年11月、架空の「大浦市長選」を設定し、同弁護士会所属の弁護士2人が候補者役を務め、「救急車利用の有料化」を争点に、1~3年生が本番さながらの論戦などを通じて投票先を決めた。

もろずみ・たつへい

1988年、長野県生まれ。静岡県立大学卒。ストックホルム大学国際比較教育修士課程修了。文教大学生活科学研究所研究員。駒澤大学非常勤講師。NPO法人Rights理事。

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