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2019年1月7日

展望2019 日銀への提案

金融政策見直す機会 
企業、生活に悪影響回避を 
東京大学大学院教授 渡辺努氏

渡辺努氏

デフレ脱却をめざす物価目標政策が始まってから6年がたつ。当時マイナスであった消費者物価上昇率を2%まで引き上げることを政府・日銀が約束した。しかし現時点で、消費者物価(生鮮・エネルギーを除く)前年比はゼロ近傍にある。関係者の多くが物価目標2%の実現は困難との見方を示している。

こうした中で、2%という目標が高すぎたのではないか、手の届く水準に変更すべきではないかとの声が多く聞かれる。そもそも物価目標政策を採用したこと自体が間違いだったのではないか、アベノミクス以前の金融政策の枠組みに戻すべきではないかとの意見も少なくない。

6年かけても物価目標を達成できていないという事実は重い。金融政策の枠組みを見直すのはタイミングとして適切だろう。その際に重要なのはデフレのコストを正しく認識することだ。インフレにもデフレにもコストがあり、企業経営や人々の生活に悪い影響を及ぼす。中央銀行の責務はそれを回避することだ。

6年前の物価目標導入時にはそうした認識が確かにあった。しかし今聞かれるのは、金融緩和で生産が伸び、失業率も下がった。これ以上頑張っても物価を引き上げる理由は見当たらないとの意見だ。

しかしグリーンスパン元FRB(連邦準備制度理事会)議長は、米国がデフレの淵にあった2000年代初頭に、デフレが進行すると企業が原価上昇分を価格に転嫁できなくなるという意味でプライシングパワー(価格設定力)を喪失すると予言した。プライシングパワーを喪失した企業は新商品開発など売り上げを伸ばすための前向きな取り組みを諦め、コスト削減など後ろ向きの経営に向かってしまうため、マクロ経済の活力がそがれるとの懸念を示した。

今の日本経済は残念ながらグリーンスパン氏の予言通りの状況にある。閉塞感を払拭するためにアベノミクスの原点に立ち返るべきだ。

日本企業のプライシングパワーを回復させるための第一歩は、経営の現状について顧客の「共感」を得ることだ。東京大学が行った調査によれば、74%の回答者が宅配料金の値上げはやむを得ないと理解を示した。ドライバー不足が切実というメッセージが顧客に届き伝わり、値上げへの共感が生まれたのであろう。企業は値上げに至った理由を丁寧に説明し顧客の理解を得る努力を惜しむべきではない。

プライシングパワー回復の第2のポイントは雇用環境の改善だ。長引くデフレの背後にあるのは雇用や賃金が安定せず、節約志向の強い消費者の存在だ。6年間のアベノミクスで雇用者数は大幅に改善した。残る課題はいかにして賃金を引き上げるかだ。

その実現のために政府・日銀にできることがあるとすれば、金融政策の目標を物価から名目賃金(現金給与総額)に切り替えること、つまり、物価目標政策から賃金目標政策への切り替えだ。名目賃金上昇率は物価上昇率に労働生産性の上昇率を加えたものに等しい。労働生産性の上昇率を1%と仮置きすれば、物価上昇率2%と合わせて名目賃金上昇率は3%である。これを目標とすべきだ。

1960年代から70年代の米国では企業のプライシングパワーが強すぎるという問題が生じ、これが賃金・価格インフレを引き起こした。これに対処するために政府は賃金・価格のガイドラインを設けるなど所得政策を採用した。

多くの企業がプライシングパワーの喪失に苦しむ日本ではその逆の発想が必要だ。プライシングパワーの回復に向けて、「名目賃金上昇率が3%になるまで金融緩和を継続する」という新たなメッセージを政府・日銀が消費者や企業に向けて発信することは検討に値する。

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