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コラム「座標軸」
今も脳裏から離れない。昨年11月に放映されたNHKスペシャル『見えないものが見える川』。透明度日本一、“奇跡の清流”と呼ばれる銚子川(三重県)の美観は圧巻だった◆だが、清らかさや美しさとはおよそ無縁ながら、カメラはもう一つ、驚愕の場面を捉えていた。河口付近、すなわち川の水と海の水が混じり合う「汽水」域の水中シーンだ。迷路に迷い込んだ幼児さながら、淡水魚も海水魚も狂おしい姿を晒して、棲み分けが許されぬ世界を彷徨している◆同じだ……。ふと、そんな思いがよぎった。時代は汽水の中にある、と。思えば、「ベルリンの壁」解放から30年。砕かれた壁から流れ出した“東の水”と“西の水”は複雑に混じり合いながら、グローバル化という名の汽水域を地球の隅々に広げてきた。そうして今◆そう、銚子川河口の魚たちに似て、この潮流に翻弄される人々が地上にあふれている。移民・難民、ネオ・ナチ、テロリスト、そして一国主義に走る指導者たち……。時代の落とし子という意味では同根の人々と言ったら暴言に過ぎようか。無論、日本も例外でない。汽水の流れにうまく乗った者と乗れなかった者との格差はどこまで広がるのか◆異質の水を調和しゆく中道の思潮の興隆を願うばかりの新年である。