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2021年8月28日

人権尊重する社会へLGBT法整備を早く

ロバート・キャンベル・早稲田大学特命教授に聞く

ロバート・キャンベル・早稲田大学特命教授

公明党は次期衆院選に向けて政策の方向性を示した「政策パンフレット」で、「性的少数者(LGBTなど)への理解を進める法整備をめざす」と明記した。LGBTを取り巻く日本の現状や、先の通常国会で提出が見送られたLGBT理解増進法案の意義について、当事者でもある早稲田大学特命教授のロバート・キャンベル氏に聞いた。

権利保護は世界の潮流

――LGBTを巡る日本の現状をどう見るか。

ロバート・キャンベル氏 社会の実態と、法整備の状況にズレがある。電通が昨年行った調査では、日本で「LGBT」という言葉の認知度は8割を超えており、以前に比べ格段に増えた。同性婚に関しても8割が肯定的だが、法整備状況に関しては、OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中34位(2019年)だ。

一方、米国では15年に連邦最高裁が同性婚を認めているが、今でも同性同士が手をつないで歩くだけで暴力を受けたり、差別的な言葉を浴びせられることがある。中東のように刑罰の対象となる国も一定数ある。日本では、そうした身の危険を感じることはない。

――先の国会ではLGBT理解増進法案の提出が見送られた。

キャンベル 超党派でまとめられた法案が国会提出に至らなかったのには深く失望した。学術界や産業界からは異論は出なかったが、政治の世界となると、途端にちゅうちょする人が多くなる。LGBTの権利保護は世界の潮流だ。日本でも政治家が「ノー」と言えなくなる分水嶺は間違いなく近づいている。

理解増進法、次のステップに重要

――法案の意義は。

キャンベル 法律になれば予算や人員を動かす根拠となる。罰則規定はなく、“お願いベース”の内容だが、次のステップに踏み出す足場ができることは大きい。一点だけ指摘したいのは、条文案にある「寛容」という言葉だ。辞書には「他人の罪過をきびしくとがめだてしないこと」(日本国語大辞典)とある。語感として上から目線の印象が伝わるのは残念だ。

草の根の広がりが政治を動かす

――18年8月、同性愛者であることを公表した。

キャンベル LGBTに対して極めて差別的な論文が月刊誌に掲載され、大きなニュースになったことがきっかけだった。

私は20年近く前から日本人の男性パートナーと暮らしており、米国で式も挙げた。米国の白人男性として高等教育を受け、日本では恵まれた立場で不自由なく暮らし、日本もいつかは変わるだろうと、のんきに構えていた。

ところが欧米や台湾などで次々と同性婚が認められ、世界がLGBTの人権擁護に動き出す中、日本では国政に携わる人間から無知と憎悪に満ちた発信が相次いだ。今の私であれば、どんな“大きな石”を投げられてもよける自信があるが、10代や20代の人たちにはそれができない。若い人を傷つける差別を野放しにしてはいけないと思った。

――日本社会で課題となることは。

キャンベル 一般市民が自分の身近にLGBT当事者がいることを知ってもらえるよう、制度はもちろん当事者の中から一歩前に進める行動を取るべきだ。

例えば、町内会の副会長がバイセクシュアル(両性愛者)であるとか、議員の中にLGBT当事者がいることが日常的に見えると違う。そうした草の根の広がりが、政治を動かす力になる。

ただ周囲に公表することの一番の難しさは、一度言ったら二度と元には戻せないことだ。残念ながら、今の日本では仕事や昇進の機会、人間関係など、黙っていれば失わずに済んだ何かを失う可能性がある。カミングアウト(告白)は、そうしたリスクも承知した上で、現実的な判断が必要だ。

公明は全会一致へ尽力を

――公明党に期待することは。

キャンベル LGBTの権利保護が、単にマイノリティー(少数派)の問題ではなく、社会全体に関わるという視座を忘れないでほしい。自分とは異なる特徴を持つ人を排除せず、穏やかに一緒に過ごせる社会を築くことは、不登校やひきこもりといった問題の解決にも通じる。

5月には国会内で開かれた公明党の勉強会に参加した。長くこの問題に取り組んでいる国会議員の皆さんと意見交換もでき、大変感銘した。公明党は今回見送りとなった法案について、野党との調整や自民党への働き掛けを非常に粘り強く行ってくれた。LGBTは野党の専権事項のように思っている関係者は多いが、それは違う。

与野党一致して取り組めるよう道筋を付けられるのは公明党だけだ。自治体レベルでパートナーシップ制度を主導しているのは公明党だ。国政でも存在感を発揮してもらいたい。

ロバート・キャンベル

早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問。1957年、米国ニューヨーク市生まれ。ハーバード大学大学院博士課程修了、文学博士。近世・近代日本文学が専門。85年に来日し、東京大学大学院教授、国文学研究資料館館長などを歴任。今年4月から現職。

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