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コラム「北斗七星」
「上善若水」。扁額に収め居間に掛けてある墨書だ。駐日中国大使館の交流プログラムで訪れた中国4都市のうち、北京市の交道口福祥コミュニティで頂いたものである。偶然にも、メモに書きとどめておいた老子の言葉だった◆日本語で読むと、「上善は水の若し」。最上の善は水のようなもので、万物に利益を与えるほど大きな存在なのに、決して功名を争わない。むしろ、水は低い所へと流れ、谷川から大河に注ぎ、最後に海に入って大きな存在になるという意味だ◆視察した交道口福祥コミュニティは中国の最前線組織。約4800人が暮らし、党委員会と住民委員会が運営。習近平国家主席が激励したことも。拠点施設では行政事務のほか、ボランティアによる散髪やマッサージ、書道なども行われているという。墨書は担当の書家の作である◆ちなみに、この地域には元の時代から続く「胡同」という路地に沿って伝統的家屋が点在。7000人が住んでいたが、若い世代が流出し高齢化が進行していると聞き、日本が抱える課題と重なった。ただ拠点にいた住民の目は希望に満ちていた◆唐時代の政治問答集『貞観政要』(守屋洋訳/徳間書店)には「君は舟なり、人は水なり」とある。正常な軌道に乗った日中関係を安定、発展させる基は人と人との交流だ。「政熱民冷」では心許ない。(田)