ニュース
コラム「北斗七星」
シリア出身の女子競泳選手、ユスラ・マルディニさん(23)は、3歳で水泳を始めた。夢は五輪。だが、プールが砲撃され、17歳の時に姉と祖国を脱出する。20人乗りのゴムボートのロープを握り、必死でエーゲ海を泳いだ。ドイツで練習を再開し、2016年、五輪切符をつかむ◆リオまでの道のりを振り返った『バタフライ』(朝日新聞出版)を読んだ。「たとえ爆弾が落ちてきて人生がめちゃめちゃになったとしても、また立ちあがり、埃をはたいて、歩き続ける」。負けない心が、どれほど人々を励ましたことか◆ユスラさんが再び、五輪の舞台に戻ってくる。11カ国29人の難民選手団の東京五輪出場が決まった。前回大会で、初めて4カ国10人で結成されたのが同選手団だ◆日本の後押しで出場する陸上選手たちもいる。11年に独立した南スーダン。首都のグラウンドは16年、自衛隊の手で整備され、スポーツを通じた民族和解が進む。東京五輪の延期中も、群馬県前橋市で事前合宿を続け、日本との絆を深めた。女子選手が合宿先で綴った「桜・桜・桜」の文字には、日本への感謝も込められているのだろう◆難民選手団は開会式で、先頭のギリシャに続き五輪旗を掲げて入場する。全人類が平和への誓いを新たにするはずだ。心から歓迎し、声援を送りたい。(也)