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2021年5月5日

論点整理 性犯罪の規定見直し

法務省検討会の議論から

性犯罪に関する刑法の規定は、実態に即した適切な運用がされているか―2017年7月施行の改正刑法の付則に基づき、施行後3年を目途とした見直しを進める法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」は先月、取りまとめ報告書案を公表した。暴行・脅迫を強制性交等罪の要件としている刑法の規定は現実的か、また、性犯罪の被害者団体が求めている、不同意だけを要件とする新たな性犯罪の創設は必要か、など注目の論点が議論されている。さらに、子どもや障がい者をどう守るかも検討された。報告書案で示された主な論点を整理した。

積み残された課題

不同意性交罪の創設と公訴時効撤廃は可能か

法務省が2020年から始めた刑法の性犯罪規定に関する見直し論議に対し、性犯罪の被害者やその支援団体の関心は高い。独自に問題点を指摘し署名運動を展開するなど、積極的に改正を求める声を上げている。

そうした声は次のように要約できる。

改正刑法【別掲「改正刑法の概要」参照】によって強制性交等罪ができたことで「時代が変わった思い」はした。しかし、その加害者を裁判で有罪にするには、なおハードルが高い。刑法177条(強制性交等罪)は犯罪が成立する要件(構成要件)として「暴行又は脅迫を用いて」と規定しているが、性犯罪の現場では、暴行・脅迫には当てはまらないケースも多い。それにもかかわらず暴行・脅迫の立証ができないと無罪とされ、被害者の心には大きな傷が残ってしまう。

この問題にどう対応すべきなのか。

20年5月に公明党が性犯罪規定の見直しについて意見を聞くために招いた諸団体からは、①暴行・脅迫を構成要件から外し、同意のない強制性交を処罰するための不同意性交罪を創設すべき②強制性交の被害者は心に大きな傷を受け、すぐに相談や被害届が出せる状態ではなく、場合によっては何年もかかるため公訴時効の撤廃が必要――との考えが示された。

このうち被害者の当事者団体「スプリング」は、①②に加え、③上司や先生などの地位や関係性を悪用した性犯罪の創設が必要④13歳以上は性交について認識し同意できる能力があるとされるが現実的ではなく、16歳に引き上げるべき――とし、これら4点を改正刑法の「積み残された課題」だと強調した。

法務省検討会の報告書案では、この4点全てで確定した結論は示されず、性犯罪論議の難しさが改めて浮き彫りにされる形となった。

厳正処罰の必要性

弱い立場の子どもや障がい者を守るため

法務省検討会に提出する目的で「スプリング」が20年8~9月に実施したWEBアンケートによると、「挿入を伴う被害」の場合、加害者の言動では暴行・脅迫が特別多いわけではなく、被害者は明確な暴行・脅迫がなくても恐怖を感じ、戸惑い、体が動かないフリーズ状態になるとの分析が示されている。

また、被害者が被害だと認識できるまで平均7.46年かかるとの結果から、10年の公訴時効の大半が過ぎてしまうことも明らかにされた。

検討会の議論は、こうした性犯罪の現実を踏まえて行われた。

まず、暴行・脅迫はないが、同意のない性交に関し、「性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある」との総論では一致した。しかし、不同意性交罪の創設に関しては「国際水準に従って不同意の性交等を処罰すべき」との意見の一方で、不同意の立証には、やはり暴行・脅迫など客観的要素を手掛かりとすることが有用であるとして、「不同意のみを要件とすると立証の対象を特定しにくい」との両論併記になった。

公訴時効撤廃に関しては、年少者は性的行為の意味が分からず、大人でも加害者が身近な人の場合、被害認識が困難になるとの認識は共有された。しかし、「(時間の経過による)証拠の散逸や法的安定性にも留意しつつ」さらに検討をすべきとされた。

地位や関係性を悪用した性犯罪については、肉体的・精神的または社会的に脆弱で判断能力が不十分な子どもや障がい者を守る必要があることについては一致した。その一方で、子どもや障がい者以外の者に対する場合にも新たな処罰類型が必要かどうかについては意見が分かれた。

このうち障がい者については「施設職員と入所者という関係を明示した規定を創設する必要がある」「当該障がい者がその生活を依拠している者からの行為は犯罪としてよい」との見解も示された。

また、子どもや障がい者以外の場合でも、「相手の人生や将来、経済状態等を決定する権限のある者、相手の生活・生命・精神状態を左右し得るような立場の者による性的行為は罰することが必要」との考えも示されたが、構成要件のあり方についてさらなる検討が必要とされた。

結論よりも改正論議の方向性示した報告書案

法務省検討会の報告書案は、検討テーマを大きく11項目とし、それぞれの中で詳細な論点を掲げている。しかし、報告書案は全項目で一致した結論を示していない。多くの論点は今後の見直し論議の方向性を示した「小括」にとどまっている。11項目中の17論点のうち、10論点が「小括」だ。

改正刑法は性犯罪規定を110年ぶりに大改正した。新しい性犯罪規定の運用はまだまだ緒に就いたばかりである。一方で性犯罪を巡る状況はその複雑さを増している。議論の困難さは容易にうかがえる。

今月、報告書がまとまれば、法務省はこれを参考に法制審議会(法相の諮問機関)への諮問に向けた検討を始める。

改正刑法の概要

17年施行の改正刑法は、①強姦罪を強制性交等罪に変更し罰則を強化②性犯罪の親告罪規定を削除③監護者わいせつ罪と監護者性交等罪の新設――などを定めた。

【強制性交等罪】強姦は女性に対する犯罪であり、加害者は男性に限られていた。改正刑法は性交だけでなく性交類似行為も処罰の対象にするため、明治以来の強姦罪を強制性交等罪に改めた。これにより男性も被害者に含まれることになった。

性交類似行為は、これまで強制わいせつとして扱われ、強姦罪より罰則も軽かった。改正刑法は、濃厚な身体的接触を伴う性交類似行為も強姦による性交と同等の悪質性、重大性があると位置付け、強制性交等罪の中で厳しく処罰することにした。

また、強姦罪の法定刑は下限が懲役3年だったが、強制性交等罪は同5年に厳罰化された。

【親告罪規定の削除】検察は被害者の告訴なしに裁判を提起することができる。

【監護者性交等罪】親など子どもを現に監護している者が、その影響力を利用して18歳未満の子どもに性交やわいせつ行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰できる監護者性交等罪と監護者わいせつ罪を新設した。従来、暴行や脅迫がなければ、こうした行為は量刑の軽い児童福祉法違反で処分されていた。

性教育への動き

「スプリング」のWEBアンケートには、被害の相談や警察への届け出を行いやすい社会にするには「どのような変化が必要か」との質問があった。その自由記述による回答で「幼児からの性教育」は、「被害者を責めない」「性犯罪・性暴力の厳罰化」に次ぐ3番目であった。

日本の性教育は海外に比べかなり抑制的である。しかし、性犯罪に巻き込まれる18歳未満の子どもが増加傾向にあることから、文部科学省と内閣府は先月、年代別の「性被害防止教材」【写真は小学生向け】を公表した。

子どもの発達段階に応じた教材作成は初の試みで、①幼児期②小学校の低・中学年③同高学年④中学⑤高校⑥主に大学――の6種類。23年度から全国の小中高校での活用をめざす。

小学生向けでは、水着で隠れる部分は大切な所で、見せたり触らせたりしないよう教えている。

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