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【主張】WTO改革 保護主義抑止する契機にしたい
世界で保護主義が台頭する今こそ、自由貿易体制の立て直しを進める契機にしなければならない。
日本や欧州連合(EU)、米国などは12日、国際的な貿易ルールを取り扱う世界貿易機関(WTO)の監視・調査機能を強化する改革案を物品貿易理事会に共同提案した。
具体的には、加盟国がWTOへの通知なしに自国の産業を優遇する制度や補助金を導入した場合、分担金の増額といった制裁を科す。
WTOルールでは、政府が特定の産業を優遇する場合、WTOに報告する義務があるが、順守しない国は増加傾向にある。とりわけ中国は、鉄鋼業界に多くの補助金を出して過剰生産を発生させ、欧米はじめ国際市場を混乱させている。改革案は、こうした状況への対応が念頭にあるとされる。
ルールの軽視によって国際競争がゆがめられてならないのは言うまでもない。改革案の運用には全加盟164カ国・地域の同意が必要になるが、日本は提案国として欧米と緊密に連携しながら合意形成に全力を尽くしてもらいたい。
とはいえ、自国産業の復活を掲げる米国も鉄鋼の輸入制限の発動や中国からの輸入品の半分に制裁関税をかけるなど、WTOルールの違反に国際的な批判が高まっている。
それでもトランプ米大統領は意に介さず、WTOからの脱退すらほのめかす。WTOが重要な役割を果たしてきた「紛争解決制度」に欠かせない委員の選出も米国の反対によって進まず、このままでは機能停止に陥りかねない。
冷戦後の国際公共財として多国間貿易体制を支えてきたWTOの機能は著しく低下していると指摘する専門家も少なくない。改革による機能回復は急務である。
であればこそ、日米欧が改革案を取りまとめた意義は大きい。米中が貿易戦争を繰り広げる中、米国をWTOに踏みとどまらせることができれば、一方的な貿易制限措置の抑止にもつながろう。
重要なことは「米国もコミット(関与)してもらえるようにする」(世耕弘成経済産業相)環境の醸成だ。米国との関係が良好な日本こそ、改革の議論を主導する役割を果たす必要がある。