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コラム「北斗七星」
<花の命は短くて/苦しきことのみ多かりき>。明治生まれの作家・林芙美子は、友と酒と旅を愛した。『放浪記』には、友と酌み交わそうと、次々に蔵書を売り飛ばす場面が出てくる。早世だった彼女が生きていたら、思うに任せぬコロナ禍をどう生きただろう◆芙美子と同じ1903年に生まれた田中カ子さん(福岡市)が、聖火リレーへの参加をめざしていると聞き、胸躍った。世界最高齢の118歳。体調や天候によるが、介助者が押す車いすで来月、福岡県内のコースをつなぐという◆戦争と2度のがん手術を生き抜いた。2度目の大腸がん手術は、103歳の時に東京で。術後、「元気になったら何がしたい?」と聞く主治医に、「ビールが飲みたい」と答えている(『花も嵐も』花田衞著)◆そんなカ子さんが、息子の復員をどれほど喜んだことか。<戦地より命拾いし息子らと/たのしくすごす倖せの日々>(93歳)。かけがえのない人と一緒に過ごせることは、当たり前ではない。聖火には、平穏な世界を願うカ子さんの思いも込められているのだ◆<花の命は~>に続きがある。<苦しきことのみ多かれど/風も吹くなり/雲も光るなり>。耐えて咲く花にとって、政治こそが吹く風、光る雲であらねば。桜舞う聖火の道。決意を新たにする4月である。(也)