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夜間中学の現状と課題
さまざまな理由から義務教育を十分に受けられなかった人が学ぶ「夜間中学」。近年、不登校の児童生徒や外国籍者の増加で、その役割に注目が集まっているが、設置している自治体はまだ少ない。夜間中学の現状と課題を解説するとともに、全国夜間中学校研究会の竹島章好事務局長にコメントを寄せてもらった。
学びの安全網として機能 設置は10都府県にとどまる
夜間中学は元々、戦後の混乱や経済的な理由などで義務教育を受けられなかった人が学ぶ場として設けられ、最も多かった1954年頃には全国で89校が設置されていた。
その後、就学支援の充実や社会情勢の変化に伴って設置数は減少。現在は、10都府県に34校となっている。このほかにもボランティアなどが運営している自主夜間中学も各地にある。
近年の夜間中学の生徒は、仕事などで来日した外国籍の人が増え、不登校などで十分に義務教育を受けられなった人も通い、学びのセーフティーネット(安全網)としての機能を果たしている。
こうした中で、2016年12月に、夜間中学などの就学機会の提供を自治体に求める「教育機会確保法」が成立した。公明党が強力に成立を後押ししたもので、全ての都道府県に夜間中学の設置を求める内容となっている。
同法の成立後、夜間中学が3校開校(埼玉県、千葉県、茨城県)。来月には徳島県と高知県で、来年4月に北海道と香川県で、開校する予定だ。
不登校経験した生徒が増加
政府、5年で全国展開めざす
一方、いまだ33県は設置が決まっていない。その理由について各自治体は財政面などに加え、夜間中学のニーズの把握が難しいことを挙げている。
夜間中学の生徒数は全国で1729人(文部科学省調査、昨年1月段階)。内訳は外国籍者が80%で、中学を卒業していない日本国籍者は11.4%、中学既卒者は8.6%となっている。
特に増加傾向にあるのは中学既卒者で前回調査から倍増した。不登校などで十分に義務教育を受けられなかった人が多い。
小中学校で不登校となっている児童生徒は2019年度、小学校で5万3350人、中学校で12万7922人の合計約18万人と増加傾向にある。このため、潜在的な夜間中学の入学希望者は多いとみられており、全国に設置する必要性が指摘されている。
公明の推進で新設準備・運営に補助
公明党は、学び直しの場をつくることが重要であるとして、夜間中学を積極的に推進。現在審議中の2021年度予算案にも公明党の主張が反映され、夜間中学の新設準備・運営を5年間補助する費用が盛り込まれている。
また、今年1月の衆院予算委員会で公明党が、夜間中学の設置を訴えたのに対し、菅義偉首相は「今後5年間で全ての都道府県、指定都市に夜間中学校が少なくとも一つ設置をされる、このことをめざす」と答弁している
基本的人権守るため義務教育は不可欠
全国夜間中学校研究会 竹島章好事務局長
夜間中学の教職員でつくる全国夜間中学校研究会は、全ての人が義務教育を保障されるよう訴えています。
日本には、さまざまな事情で、日本や母国で十分に義務教育が保障されなかった方がいます。学齢(15歳まで)を過ぎて義務教育を受けることができるのは夜間中学だけです。
ところが、全国に10都府県34校しかありません。教育機会確保法が2016年12月に成立した後、埼玉県川口市、千葉県松戸市、茨城県常総市に新しい夜間中学が誕生しました。未設置県が減ったことは、教育弱者に置かれている人々にとって大きな希望です。
しかし、政府が掲げる全ての都道府県・政令指定都市につくるとの目標には及びません。
そもそも夜間中学がない地域では、その存在も、どのような学校かも知られていません。ニーズも掘り起こせません。自治体に専門的な方もいません。そこへ、財政も大きな壁になって設置が進んでいないのが現状です。
「コロナ」で大変な社会状況で、読み書きに課題のある人は苦労しています。
例えば、昨年の1人一律10万円の特別定額給付金の申請などの支援も、読み書きができないと受けることが困難です。社会制度を知らないため役所に相談していいのか分からないのです。
義務教育は基本的人権を守るために欠かせません。夜間中学の設置・拡充を引き続き求めていきます。