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2021年3月23日

ネット上の人権対策を強化

関連法改正案が国会提出

政府は先月、インターネット上で匿名の発信者から受けた誹謗中傷による人権侵害を迅速に救済するため、プロバイダー責任制限法の改正案を閣議決定し、国会に提出した。損害賠償請求訴訟に必要な発信者の特定にかかる時間や費用など被害者の負担を軽減するため、新たな裁判手続きを創設する。

現行の手続き

昨年5月、テレビ番組内での発言を巡り、出演していたプロレスラーの女性が会員制交流サイト(SNS)上で「早く消えて」「吐き気がする」などと多数の誹謗中傷を受け、死に追い込まれたことに社会は衝撃を受けた。

こうしたネット上の人権侵害が深刻化している。総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」が、2019年度に受け付けた相談件数は5198件だった。事業が始まった10年度の約4倍に増加している。

被害者が損害賠償請求訴訟をする際に壁となるのが、誹謗中傷をした発信者が匿名であることだ。このため、まずは発信者を特定する必要がある。

発信者の特定には、SNSなどの事業者が保有する投稿の痕跡(IPアドレスなど)から発信者が契約するネット接続事業者を割り出し、同接続事業者から氏名や住所といった発信者情報の開示を受ける手続きを踏むのが大半だ。

発信者特定に2回の裁判 1年半以上かかる場合も

そこで現行のプロバイダー責任制限法は、投稿による権利侵害が明らかな場合、被害者がSNSなどの事業者やネット接続事業者に対し、発信者の特定に必要な情報を開示するよう求めることができる権利を規定している。

しかし、被害者が各事業者に直接、開示請求をしても、問題の投稿が権利侵害に該当するか否かの判断で事業者が迷った場合、裁判になってしまうケースが多い。

この場合、被害者はSNS事業者らへの開示請求(仮処分申請)と、ネット接続事業者への開示請求で2段階の裁判手続きを踏まねばならない。長くて1年半以上の時間がかかる上、弁護士費用などのコストも大きな負担となっている。

また、発信者特定の手掛かりとなるIPアドレスなどの通信記録は、個人情報保護の観点から、おおむね3~6カ月で消去される。 このため、裁判に長い時間がかかることで発信者が特定できなくなるケースも生じている。

被害者の迅速な救済へ 開示請求手続き簡素化

これらの課題を踏まえ、今回のプロバイダー責任制限法改正案では、従来の裁判手続きに加え、SNS事業者らへの開示請求と、ネット接続事業者への開示請求を一体的に扱う新たな手続きを創設する。

具体的には、裁判所が被害者の申し立てを受け、①SNS事業者らに対し、ネット接続事業者の特定と、同接続事業者へIPアドレスなどの提供を命令②ネット接続事業者に対し、発信者の特定に必要な通信記録の消去禁止を命令③問題の投稿が悪質で、被害者への発信者情報の開示が適当であると判断した場合、両事業者に対し開示命令――の三つの命令を行う。

これにより、1回の裁判で発信者を特定することを可能とし、被害者の時間や費用面の負担を軽減。迅速な救済につなげる。裁判にかかる時間は、新制度への習熟によって約6カ月以内に短縮されることが期待されている。

新たな手続きは、テレビ会議システムや書面で審理を受けられる簡易な形式となり、出廷する必要もない。

また、消去禁止命令により、審理の間は通信記録が保全されるため、開示命令が出たにもかかわらず発信者が特定できなくなる事態を防ぐことができるようになる。

発信者の特定について、IDやパスワードを入力して利用するSNSなどログイン型サービスの中には、投稿時のIPアドレスが保存されないケースがある。これに対応するため、改正案ではログイン時のIPアドレスも開示請求できるようにする。

公明提言が反映

公明党は昨年5月、ネット上の誹謗中傷や人権侵害への対策を検討するプロジェクトチームを発足。関係団体や有識者と議論を重ね、発信者を特定する裁判手続きの簡素化・迅速化や啓発活動の重要性、相談窓口の拡充などを政府に訴えてきた。総務省が同9月に公表した総合対策には、公明党の提言が全面的に反映されている。

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