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災害弱者の命守る
移動型のトレーラーハウス
在宅医療機器など電源を安定的確保
太陽光、プロパンガスで発電し長期避難が可能に
岩手・北上市の企業が開発
停電時、医療機器が必要な人々の命をどう守るか――。10年前、東日本大震災で被災した在宅医療患者の元へ、酸素ボンベを届けた経験を持つ岩手県北上市の民間企業が、電気や水を“自給自足”する移動型トレーラーハウスを開発した。全国で自然災害が相次ぐ中、障がい児・者や高齢者を救う新技術に期待が高まっている。=東日本大震災取材班 佐藤裕介
10年前の大震災で停電が発生し、病院や自宅の医療機器が使えなくなり、医療的ケア児・者らが命の危険にさらされた。同県一関市在住の千葉一歩さん(30)もその一人。一歩さんは生まれつき、先天性の難病を抱えている。母・淑子さん(59)は「ショートステイ先が停電し、たん吸引や心拍数の確認ができずに焦りました」と当時を振り返る。
自己完結
電気、水道、ガスといったライフラインが途絶えても、生活インフラを自己完結させる形で開発されたのが「レスキューブ4」だ。このトレーラーハウスは全長12メートル、高さ2.9メートル、奥行き2.5メートルで、室内には木材を使った温かみのある居住空間と、キッチンやトイレ、シャワーを備える。災害時にはけん引して被災地に移送し、仮設住宅としての活用を想定している。
特徴は、医療的ケアが必要な人の“生命線”である電源の確保に万全を期していること。太陽光パネルと液化石油ガス(LPG)の2系統の発電設備を持ち、非常時には医療機器を安定的に使用できる。生活用水をろ過して繰り返し使える浄水機能も搭載。レスキューブ1台で、外部から電源や水の補給がなくても1カ月強の期間“自給自足”できる。なお、電気自動車からの給電も可能という。
3.11が教訓
レスキューブ内を視察する党岩手県本部の議員団ら=2020年11月22日
レスキューブを開発したのは、医療用ガスの製造・供給を行う北良株式会社(笠井健社長)。3.11直後、笠井社長は会社の倉庫に備蓄していた災害時用の酸素ボンベ300本をトラックの荷台に積み込み、在宅酸素療法を行う患者らの元へ車を走らせた。
2014年、大震災を教訓に防災プロジェクトを始動した。電気が不要な、たん吸引器や、患者の避難行動をリアルタイムに把握できる衛星利用測位システム(GPS)付きの安否確認システムを構築。さらには、3000キロを無給油で走る支援車両のほか、水循環型の屋外シャワーキットを開発した。
こうした、3.11の経験で得たノウハウを凝縮したレスキューブが昨年10月に誕生した。現在は、新しい福祉避難所、福祉仮設住宅として年内の量産をめざしている。
このほど、一歩さんの家族はレスキューブの宿泊体験に参加。淑子さんは、電気や水道を気兼ねなく使えたとし、「娘は医療機器が不可欠で、こうして電気が確実に使える仕組みがあると安心して避難できます」と語っていた。
公明党岩手県本部(代表=小林正信県議)は昨年11月にレスキューブを視察。小林県代表らは「災害時の避難所として幅広く活用できるよう応援していきたい」と話していた。