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コラム「北斗七星」
「あの日を境にしてすべてが変わってしまった」。コロナ禍を嘆いたものではない。没後10年余になる世界的な免疫学者・多田富雄氏が著書『寡黙なる巨人』の冒頭に書いた言葉だ◆2001年5月、脳梗塞を発症。死の淵をさまよい目覚めた時は右半身がまひし会話不能に。嚥下障害で水を飲むのも命懸けの身となっていた。当初は死ぬことばかりを考えたが、夫人の献身的な看護と壮絶なリハビリに励むうちに、重度の障がいを抱えた自分の未来に無限の可能性が秘められていることを実感したという◆その後、左手だけでキーボードを打ち多くの著作を執筆。広島の悲劇を描いた『原爆忌』など能の創作にも携わった。国際免疫学会連合会長などを歴任した多田氏は、自然科学や芸術、文学など国内外の多彩な分野の人材を結び付けた。重度障がい者になってからも若い研究者と交流し「壁にぶつかったら遊びに来てください」と激励している◆「私たちには今日も明日も困難が待ち受けている。それでも私には夢がある」と語ったのは、米公民権運動をリードしたキング牧師。絶望的な出来事に遭遇しても悲観せず、団結を呼び掛け道を開いた◆緊急事態宣言が延長され、今月中旬には医療従事者へのワクチン接種が始まる。未聞のプロジェクトを一致協力して乗り越えよう。(鷲)