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脱炭素化 企業の取り組み
再エネ促進が投資呼び込む
温室ガス50年ゼロ
10年ごとの中間目標必要
東京大学未来ビジョン研究センター 高村ゆかり教授の講演から(要旨)
政府が方針を示している「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」に関して、党地球温暖化対策推進本部(本部長=石井啓一幹事長)の会合で、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授が、国民生活や企業におけるカーボンニュートラルの意義について講演した要旨を紹介する。
今回の表明は大きな意義がある。一つは、50年と期限を切ることで、目標達成に向けて、どこに課題があるかが明確になることだ。
激甚化する気象災害など気候変動の影響の深刻化を背景に、世界的に脱炭素社会実現に向けた取り組みが加速している。50年カーボンニュートラルをめざす国・地域が120を超えた。日本でも50年までに二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロを宣言する自治体は200を超えている。脱炭素への取り組みは、気象災害から国民の命と生活を守るという点で非常に重要だろう。
経済界では、脱炭素に向けた機運が高まっている。自社の事業から直接排出する排出量の削減に加えて、サプライチェーン(供給網)からの排出量も削減する動きが広がっている。
例えば、自社使用の電気をすでに再生可能エネルギー(再エネ)100%で賄う米アップルは、製品のサプライチェーンとライフサイクルからの排出量を30年までに実質ゼロにする目標を掲げ、取引先に再エネ100%での製品製造を促し支援する。アップルのような企業と取引をしている企業、さらにその企業の取引先にとっては、再エネが調達できないことで事業機会を失うリスクが生じる可能性もある。
一方、投資を行う金融機関にとっても、排出しないで事業ができるかは、企業評価の重要な要素になっている。そういう意味で、これまで環境・エネルギー政策にとどまっていた気候変動対策が、産業・経済政策として極めて重要になっている。企業が脱炭素化へ向かう社会の変化に対応していけることが、雇用確保にもつながるだろう。
今後、日本は、50年カーボンニュートラル実現の目標に合致するため、野心的な30年、40年の排出削減の目標を掲げ、足元からできる対策を早期に強力に進めることと、長期の視点をもった対策の双方が重要だ。
国際社会では、気候変動の影響を考えると、30年までの10年が気候変動対策を決めるとの認識だ。野心的な削減目標、再エネ導入目標を掲げて、脱炭素社会に向けた政策、施策を今から総動員するべきだ。コロナ禍で非常に弱った経済、社会からの復興策としても重要だ。
同時に、長期的な視点も忘れてはならない。
今、解決策が見いだせていない分野の技術研究・開発を進める必要がある。また、今後、建設や投資を決めていく発電所や建築物は50年にも残っている可能性が高い。これらを決める際には、50年カーボンニュートラルという目標と整合的なものにしていく視点が大切だ。
50年カーボンニュートラルに向かう対策は、容易ではないが、国民生活の向上や日本社会が抱える課題解決にも貢献する。
例えば、消費エネルギーを低減し、必要なエネルギーは太陽光などで補う「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」は、室内の温度差が少ないため住む人の健康を守り、災害時などに必要なエネルギーをつくり出してくれる。国民生活の向上に貢献し得る政策が極めて重要であり、期待したい。