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科学技術立国の復活めざす
政府が新たな5カ年計画(素案)発表
政府は1月19日、2021年度から5年間の科学技術政策の方針を示す「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の答申素案をまとめた。素案では、5年間の研究開発費の投資目標を30兆円に設定し、第5期(16~20年度)の目標より4兆円増額。若手研究者の育成のほか、脱炭素社会の実現に向けた技術革新などを後押しし、科学技術立国・日本の復活をめざす。素案の概要を解説するとともに、公明党科学技術委員会の浜村進委員長(衆院議員)の見解を紹介する。
科学技術・イノベーション基本計画の主な目標
研究開発へ30兆円を投資
若手研究者の待遇改善も
今回の素案は、自然科学だけでなく人文・社会科学も含めた「総合知」を活用した超スマート社会「ソサエティー5.0」の実現をめざし、投資目標を30兆円とした。
第5期で掲げた26兆円程度(国内総生産=GDP=比1%)から4兆円ほど増額し、経済状況で上下の変動があるGDPと連動しない設定となった。
素案の柱は、若手研究者の支援充実や、デジタル化などの研究力強化だ。
特に若手研究者の支援については、博士課程の大学院生のうち年180万円以上の生活費相当額を支給する割合(18年実績で10.1%)を、25年度までに3倍の30%に引き上げる方針を示した。
また、研究の多様性を確保するため、学長、副学長、教授全体に占める女性の割合を23%に引き上げるとした。さらに、10兆円規模をめざす大学ファンド(基金)も設ける。基金の運用益で、若手研究者への給与やポストの提供などを支援し、資金力の乏しい国内大学の状況を改善する。
このほか、スーパーコンピューターなどのデジタル技術の開発、地球規模の課題克服や安全・安心な社会に向けた研究開発、産学官連携の強化などを進める。
政府の投資目標を示すことで民間投資との相乗効果を生み、デジタル化の推進や脱炭素社会に向けた取り組みを進める。官民合わせた投資額は120兆円をめざす。
米中欧の後塵を拝す日本
公明、基金創設など主張
政府が科学技術振興に力を入れ、若手研究者の育成を急ぐ背景には、科学技術分野における熾烈な国際競争がある。
日本は、1996年度に初めて科学技術基本計画を策定し、科学技術立国に向けた取り組みを進めてきたが、近年は国際社会で後れを取っており、例えば科学技術力の国際的な指標となる論文発表数を見ても、米中や欧州の後塵を拝している。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所が昨年8月に公表した報告書「科学技術指標」によると、世界から注目され、質が高いとみなされる論文数について日本は、20年前は4位だったが、今回は9位となっている。
特に若手研究者については、大学などの研究機関に働いていても有期雇用だったり、ポストが不十分なため将来に不安を抱き、研究の道を諦めてしまう人がいるなど待遇改善の必要性が指摘されている。
科学技術立国の復活をめざす公明党は、日本を取り巻く研究環境の課題を踏まえ、若手研究者らと意見交換を重ねてきた。
今回の素案をまとめるに当たっては、政府に対し、「若手研究者の支援や大学におけるポストの充実」「研究に専念できる環境の構築」などとする政策提言を申し入れた。政府の投資目標や財政基盤が弱い大学の研究を支えるための基金創設なども、党の申し入れの中で強調している。
社会的課題の解決へ「総合知」活用進める
党科学技術委員会委員長 浜村 進 衆院議員
政府が示した答申素案については、党の政策提言と方向性が合致しており、高く評価しています。
素案では、従来の課題認識に加え、この5年間で見られる新たな社会の変化として、世界秩序の再編、現実の脅威となったグローバル・アジェンダ(地球規模の課題)、情報社会の限界の露呈を挙げています。
こうした課題に対処し、人類の幸福の最大化と安全・安心の確保に資する計画の策定が期待されます。
昨年改正された科学技術・イノベーション基本法では、科学技術の範囲に人文・社会科学を位置付けることにより、社会的課題を解決するための「総合知」の創出や活用が見込まれます。
また、若手をはじめとした研究者の置かれている環境の改善は大きな課題となっており、昨年策定された研究力強化・若手研究者支援総合パッケージの着実な実行が重要です。
国際競争を勝ち抜くことができるよう、しっかり推進します。