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コラム「北斗七星」
東京の老舗ジャズクラブのオーナーらが20年前、1月22日を「ジャズの日」と決めたと知り、久しぶりに巨匠ハービー・ハンコック(米)のジャズ・ピアノを聴きながら彼の『自伝』(川嶋文丸訳)を開いた◆若き日、師のマイルス・デイヴィス(トランペット)と共演した彼が、明らかに間違った音を出してしまった瞬間、師はその音が正しかったと思わせる音で曲に新しい命を吹き込んだという◆各パートが奏でる音の流れに機敏に対応する即興演奏がジャズの魅力だが、そこには批判も競争もない。協力に徹し、「全員のパフォーマンスを理想的なかたちで燃え上がらせる」とハービー◆2008年、米国発の経済危機が各国へ連鎖する中で彼は、「世界が集団で演奏するジャズのようになったらどうなるだろう」と考えた。世界の人々をつなげたいと、翌年、アイルランド、マリ、インド、オーストラリアなど離れた国々のミュージシャンによるレコーディングに挑み、各地へ飛んだ◆不可能とも思えたが、11カ国のアーティスト、七つの言語で編んだアルバム『イマジン・プロジェクト』を生み、大反響を呼んだ。いま、ウイルスが変異するなど流動的に蔓延する感染症の対策には、世界規模の機敏な協力が必要だ。ハービーは語る。「私が使う語彙のなかに“不可能”という言葉はなかった」(三)