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温暖化対策 待ったなし!
アルピニスト 野口健 氏 × 公明党副代表 斉藤てつお 氏
地球温暖化による異常気象や災害が今、世界の脅威となっています。長年、富士山やヒマラヤでの清掃活動など、現場にこだわって汗を流すアルピニストの野口健氏と、公明党の斉藤てつお副代表(元環境相)が、環境問題や災害対策などで熱く語り合いました。
氷河の急速な融解に危機感 野口
「脱炭素」へ強い覚悟で挑む 斉藤
斉藤てつお副代表 野口さんは国内外の山に挑む中で、温暖化の影響をどう感じますか。
野口健氏 今では普通の光景ですが、15年ほど前にはヒマラヤの標高約5300メートルの場所でハエが飛んでいて、大ニュースになりました。また、氷河の融解も深刻です。溶けた氷河がたまって湖となり、その決壊による洪水も起きています。温暖化は急速度で進行していると実感します。
斉藤 何千年、何万年単位で形成された氷河が、ここ数年で急速に溶けている。時間の単位だけを考えても、人類は大変な危機に直面しています。この急激な変化は明らかに人類がもたらした結果です。私たちは自然に対しもっと謙虚でなければなりませんね。
野口 温暖化の被害は、エネルギーを大量に使う国に集中するわけではありません。ネパールやブータンなど、小さくてエネルギー消費が少ない国にも、大きなダメージを与えます。その意味で先進国の責任は非常に大きい。
斉藤 今、政治のテーマとして「脱炭素社会」の実現がクローズアップされています。昨年1月の通常国会では、私も代表質問で気候変動問題を取り上げ、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするよう訴えました。
その後、首相交代に伴い自民党と新たに結んだ連立政権合意にも、気候変動問題に積極的に取り組むことを明記しました。こうした経緯を踏まえて、菅義偉首相は50年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを達成すると政府として初めて表明しました。
首相の決断は高く評価していますが、革新的な技術開発はもちろん、国民の暮らし方や働き方にも大きな覚悟が求められます。
野口 代替エネルギーについては新たな原発を建設することは、現実的ではありません。日本は火山が多く、地熱は有力な選択肢ではないでしょうか。地熱資源や技術は世界でもトップクラスです。ケニアの地熱発電所を見学しましたが、日本の技術が生かされていて、首都ナイロビの電気事情は安定しています。その技術を日本でも活用すべきです。
斉藤 公明党も「原発に依存しない社会の実現」という大きな方向性を持っており、再生可能エネルギーを主力電源にすべきだと考えています。特に洋上風力と地熱をどう伸ばしていくかが、再エネの主力電源化のカギを握ると思います。
野口 その二つの組み合わせは、とても魅力的ですね。人間は自然の恵みを使わなければ生きていけません。ただ、使い過ぎてはいけない。バランスが大事で、一部の環境団体は「自然保護か破壊か」という極端な議論になる傾向があります。そうなると一歩も進めなくなります。
活動は「現場に行くこと」から 野口
社会の本質に迫る総点検運動 斉藤
斉藤 ところで野口さんは、富士山やヒマラヤで清掃活動などに取り組んでいますね。きっかけを教えてください。
野口 いろいろ理屈はありますが、それをそいでいって最後に残る“芯”は、「現場に行くこと」なんです。今はインターネットでデータは集まるし、詳しくなったつもりにもなります。ただ、その知識は平面です。現場に行けばそれが立体化する。現場を見ると、何か一つでも自分にできることはないかと感じ、そこから活動が始まります。
斉藤 現場を大事にする――。公明党の姿勢とも共通しますね。
野口 30年ほど前、初めてヒマラヤに行った時、そこは決して美しい世界ではなく、ごみが散乱していました。よく見たら日本語のごみもある。各国の登山家からも、「日本人のごみが特に多いぞ」と指摘され、「ヒマラヤも富士山のようにするのか」とも言われました。当時、登山家の間では世界で一番汚い山は富士山だとされていて、自分の国を否定されたような悔しさがありました。それが清掃活動の始まりです。
斉藤 公明党は草創から「環境の党」として一貫しています。大気や水などの汚染問題で党を挙げた総点検運動を実施し、国会や地方議会で追及してきました。東京都では、し尿運搬船の船倉まで入り、不法投棄の実態を明らかにしたこともありました。また、富山県の神通川流域で“風土病”といわれていたイタイイタイ病の原因を、鉱山からの廃水によるものだと突き止め、国に「公害病」と認定させました。
現場には、社会の本質に関わる重要な問題が多くあります。今後も草創の精神を忘れず、公明党は「現場第一」に徹していきます。
野口 日本は公害という苦い経験をし、それを克服してきました。今後、途上国も発展と引き換えに日本と同じ道を歩むかもしれない。日本が学んだこと、努力してきたことを伝え、どう技術協力できるか。中身のある技術協力を日本の政府開発援助(ODA)の主力にすべきだと思います。
“体験格差”生まない教育を 野口
生物多様性、維持する道探る 斉藤
斉藤 今、国内では毎年のように豪雨災害が起きています。14年には広島市安佐北区や安佐南区などを中心に発生した大規模な土砂災害で77人が亡くなり、18年の西日本豪雨では、広島、岡山両県などで200人を超える犠牲者が出ました。これも温暖化による気候変動が大きな原因です。
野口 私は岡山県総社市の環境観光大使に任命された縁もあり、西日本豪雨では市への救援物資の発送や、災害ごみの撤去などをお手伝いさせていただきました。
斉藤 16年の熊本地震でも、被災者支援に奔走されましたね。
野口 熊本地震では震度7の揺れが2回も起きて、怖くて避難所に入れないという人が車中泊を余儀なくされていました。そこでテント村を作ろうというアイデアが生まれたんです。
総社市やNPOとも連携して益城町の総合グラウンドにテント村を作り、約600人が集まりました。被災地での大規模なテント村は前例のない試みで心配の声もありましたが、救急搬送者は1人も出ませんでした。
斉藤 災害そのものを防ぐことはできませんが、被害を少しでも小さくすることは可能です。公明党は防災・減災対策を政治の主流に押し上げようとの方針を掲げています。そして、地域での助け合いの心を大切にしたいものです。
野口 テント村の運営で痛感したのは、子どもの頃からの自然体験の重要さです。アウトドアでは天候の急変など、“小さな危機”はいつでも起こります。私は子どもたちの自然体験教室もやっていますが、そうした経験の中で子どもたちは鍛えられ、生きる力が付きます。災害に強いまちづくりと同時に、災害に強い人づくりも大切です。
斉藤 自然体験や農村体験の重要性は以前から指摘されていますが、定着しない現実があります。
野口 よく、親の経済格差が子どもの学歴格差に通じると言われます。裕福な家庭に生まれた子は、何でも体験させてもらえる。私はその“体験格差”が将来の学歴格差につながると考えています。公立校でアウトドアを必修にすれば、この体験格差を埋めていけるのではないでしょうか。
斉藤 広島の中山間地を歩くと、農家の方から鳥獣被害を訴える声を多く聞きます。森林の生態系バランスが崩れていると感じます。日本人は長く山と共生し、里山をつくり、その中で生物多様性を保ってきました。もう一度、そうした道を探らなければなりません。
野口 以前は環境問題に関心を寄せる政党・政治家は少なかったですが、公明党は「環境の党」としてブレずに活動してきました。しがらみがない公明党には、その姿勢を貫いてもらいたいと思います。
のぐち・けん
1973年、米ボストン生まれ。99年、25歳の時にエベレスト登頂に成功し、7大陸最高峰の世界最年少登頂記録を更新する。環境保護活動のほか、ヒマラヤでの学校建設や国内外の被災地支援など多方面で活躍中。