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展望2021 温暖化対策と経済再生
カギ握る技術開発投資
コロナで意欲低下、政府の後押し重要
東京大学公共政策大学院 有馬純 教授
2020年の世界を席巻したコロナは地球温暖化防止のための国際的取り組みにも、さまざまな影響を与えている。
経済停滞によるエネルギー需要の激減により、世界の温室効果ガス排出量は足元では低下している。しかし、スペイン風邪、世界恐慌、第2次世界大戦、石油危機、リーマンショックなどの過去のクライシス(危機)の際、経済回復とともに排出量は増勢に転じている。各国はコロナ対策に忙殺されており、政府・国民の温暖化防止への相対的関心が低下していることは否めない。化石燃料価格の低下は省エネ・インセンティブ(誘因)を弱め、クリーンエネルギーの相対的な競争力を減ずることにもなる。
地球規模の問題であるコロナと温暖化防止に同時に取り組むため、コロナ対策のために各国政府が講じている大規模な経済対策を活用し、経済再生と温暖化防止の両立を図ろうというのが「グリーン・リカバリー」の考え方である。折しも菅義偉首相は昨年10月末に「2050年までにカーボンニュートラルをめざす」との方向性を明らかにした。政府の経済対策はグリーンとデジタルをキーワードとし、クリーンエネルギー技術の研究開発のために2兆円規模の基金が盛り込まれた。革新的技術開発に焦点を当てるのは正しい方向性である。
50年カーボンニュートラルは既存技術だけでは達成不可能であり、蓄電池、水素、排出された二酸化炭素を回収し、地中深くに貯留する技術(CCS)、次世代原子炉など、革新的技術の開発とそのパフォーマンス向上、コスト低下が不可欠だ。コロナ下の経済困難の下ではこうした技術開発への投資意欲が低下しがちであるため、政府によるインセンティブの役割が大きい。世界が脱炭素化に向けてかじを切っている中、脱炭素化技術において主導的役割を果たすことは日本企業のビジネスチャンスを拡大し、「環境と経済の好循環」に貢献することになるだろう。
エネルギーコスト、国民負担の上昇を防ぐことも重要である。日本のエネルギーコストは米・中・韓などのアジア太平洋諸国に比して1.5~2倍高く、再エネのコストが世界的に低下している一方、日本の再エネコストは国際水準よりもいまだに高い。
50年カーボンニュートラルをめざす道程において、原子力の再稼働が進まず、非効率石炭火力を閉鎖し、再エネのみを大幅に積み上げれば、エネルギーコストのさらなる上昇につながることは確実だ。これは日本企業のコスト競争力の低下、収益悪化を招き、ひいては脱炭素化技術開発のための経済余力をも奪うことになる。
福島での原発事故以降、原子力と再エネを対立概念で捉える向きがあるが、これは大きな誤りであり、再エネ拡大に伴う補助コストを安全性が確認された原子力発電の再稼働の加速によって吸収する方法は現実的な選択肢だ。また原子力イノベーション(技術革新)を推進する観点では、政治的にハードルが高いかもしれないが、新増設の可能性も視野に入れるべきではないか。
脱炭素化のために使えるオプションは全て動員すべきであり、再エネ一本足打法で自らの手足を縛ることは対策コストを引き上げ、カーボンニュートラルへの長いマラソンを走破することを難しくするだけである。