ニュース
コラム「北斗七星」
胸に刻んだ一文がある。「感情を動かす言葉だけが、人を動かす」。球界を代表する選手であり、名監督だった野村克也氏が生前、語っていた人間観だ。氏の『言葉一つで、人は変わる』(詩想社新書)にある◆コロナが日本社会を根底から揺さぶったと言われる今年、漢字一文字ながら、人心に届き、行動変容をも促した例は過去になかったのではないか。「密」である。恒例の「今年の漢字」にも選ばれた◆日本漢字能力検定協会が「今年の漢字」の募集を始めたのは阪神・淡路大震災が起きた1995年。この年、最も多かったのが「震」だった。後年、他の漢字圏でも日本と同様の取り組みがスタート。台湾の場合、今年の漢字は「疫」だったと聞く◆ちなみに諸橋轍次著『大漢和辞典』(大修館書店)によれば、密には「ひそか」や「近づく」などの意味のほか、古代中国にあった国名も。その数18種。『易経』(岩波文庫)の「退いて密に蔵す」の密は「ひそか」の意。有為な人は平穏な時には身を隠し、事あれば出て世に尽くすとの箴言だ◆止まらぬ感染拡大に、政府の分科会は23日、人の移動、接触を減らすべきと訴えた。「まず感じることで、人は考え、そして動く」(野村氏)。綿密に協議し計画を立て、訴えを重ねて年をまたぎたい。「『辛い』から『幸せ』」(小池都知事)へと変えるために。(田)