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民事司法改革 何をするのか?
利用しやすい裁判の実現と法的紛争の国際化に対応へ
私人同士の法的紛争を裁く民事訴訟に代表される民事司法制度を、使いやすく頼りがいのある仕組みにし、さらに、国際的な民事紛争にも対応できるようにする――自民、公明両党は7月と9月、政府に対し民事司法改革の推進を求める要望書を提出した。自公が考える改革を紹介し、国際的に重視されている国際仲裁の活性化に取り組む矢倉かつお参院議員(参院選予定候補=埼玉選挙区)に改革の必要性を聞いた。
訴訟を身近に IT化の推進も負担軽減に必要
「依然として費用や時間がかかるといった国民の不満が強い」――日本弁護士連合会(日弁連)は、5月に開催された公明党の民事司法改革プロジェクトチーム(PT)の初会合で民事司法の現状をこう訴えた。その根拠として日弁連は、法学者による民事訴訟研究会が2011年に実施した民事司法の利用者調査でも「利用しやすさ」が約22%、「満足度」が約21%にとどまっていることを挙げた。
法律問題をどこに相談していいか分からない人は「法テラス」に電話をすると案内してもらえるし、資力の乏しい人は「法律扶助」で弁護士費用の立て替えもしてもらえる。まず、こうした“司法を身近にする制度”をさらに改善する必要がある。
さらに、裁判を円滑に進めるための改革も必要で、政府が検討しているのが裁判のIT化だ。「紙」で提出される訴状や証拠をデータ化し、テレビ会議の利用も拡大する。裁判所に「出頭」する負担も軽減される。
また、家庭裁判所が親権者に子どもを引き渡すよう命じても、一方の親が抵抗すると強制執行ができない。民事執行の強化も課題である。
仲裁の活性化 国際標準の紛争解決制度生かせ
日弁連は国際的な民事紛争への対応強化も求めた。
外務省の調査(17年)によると、海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は約7万5000拠点で、海外在留の邦人総数は約135万人に上る。
日系企業と外国企業との法的紛争解決には大変な労力が必要で、日本の裁判所ならまだしも、外国の裁判所で訴訟となると費用もかさむ。契約によってどの国の裁判所で争うかを決めることもできるが、日本の裁判所が選ばれることは少ない。裁判のIT化など、外国企業にとっても利用しやすい民事司法を日本につくる必要がある。
また、国際的な法的紛争を裁判外で解決する方法として国際仲裁が国際標準として利用されている。これは、紛争当事者双方が合意して仲裁人(裁判の裁判官に当たる)を選び、その判断に従うという制度だ。裁判と違い非公開なので企業秘密も守れるし、時間も早く、仲裁判断の内容も確実に執行される。
国際仲裁の専用施設を日本にも作ろうとの運動が実り、5月に初の仲裁専用施設が大阪市にでき、9月には東京国際知的財産仲裁センターが発足した。
今後は、人材育成など基盤整備が求められる。
与党、政府に推進本部設置求める
自民、公明両党が7月26日に菅義偉内閣官房長官に提出した要望書は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)で「民事司法制度改革を政府を挙げて推進する」と明記されたことを受け、来年度に内閣の下に民事司法改革推進本部を設置するよう求めた。また9月4日の要望書では、今年度中に準備会(室)を設置し、各省横断的なテーマの検討をするよう訴えた。
自公が検討課題として挙げた主なテーマは次の通り。
▽裁判手続きのIT化
▽民事執行の執行力強化
▽国際仲裁活性化の基盤整備
(以上は既に政府が検討中)
▽法律扶助の改革
▽行政訴訟の改革
▽損害賠償制度の改革
▽国際民事紛争で依頼者と弁護士の通信の秘密を保護する制度
▽国連などへの法曹の任用
矢倉かつお参院議員に聞く
世界めざす中小企業に安心感を
――国際仲裁の活性化になぜ取り組んでいるのか?
矢倉かつお参院議員 企業間の国際紛争では、仲裁は実効性のある解決策であり、米国で弁護士をしていた時から関心があった。
参院議員としては、国際法曹協会の元会長であり日本の弁護士事務所で私の上司でもあった川村明先生から、日本にも国際仲裁の施設と人材育成体制の構築が必要との要請を受けていた。
――なぜ必要なのか?
矢倉 経済連携協定が広がる中、中小企業も世界をめざしている。紛争が起きても日本に国際仲裁センターがあれば経費も節約でき安心だ。中小企業支援としても、国際仲裁の基盤整備を進めたい。