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コラム「北斗七星」
救命ボートが足りない。船長が、海へ飛び込むよう各国の男たちに求めた。米国人に「英雄になれます」、英国人に「紳士になれます」、イタリア人に「女性にもてます」。日本人には「みんな飛び込んでいます」◆有名な沈没船ジョークは、同調圧力に弱い日本人の気質を突く。コロナ禍での自粛生活やマスクの着用に生きたのは、むしろ誇るべき国民性だろう◆もちろん、弱さが悲劇になった歴史もある。『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹著、中公文庫)によると、日米開戦の8カ月前、総力戦研究所に若き英才が集められる。模擬内閣が知性とデータから導き出した結論は「日本必敗」。だが、戦争回避を期待された東條内閣は反米の空気に飲まれ、開戦を決断する◆一方、日本人は同調圧力に弱くないとの実験結果は興味深い。米心理学者アッシュが、8人に1本の線を見せ、同じ長さの線を3本から選ばせた。7人の偽被験者がわざと間違い続けた後で、最後の1人に答えさせるものだ。日本人の正答率は意外にも、他国に劣っていないという◆山本七平氏は「(明治初期まで)指導者には『空気』に支配されることを『恥』とする一面があった」(『「空気」の研究』)と。あす、真珠湾攻撃から79年。コメンテーターやSNSが簡単に空気をつくる時代に、政治の責任は重い。(也)