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「男性育休」どう増やす
取得率、4年で100%達成
新潟の建築金具メーカー
「2025年までに30%」の目標を掲げる男性の育児休業取得率。2019年度段階では7.48%と伸び悩み、政府は制度の充実などに乗り出している。育休取得に踏み出せない理由のほとんどは、社会や企業の環境によるものだ。先進的な企業の取り組みを通し、育休促進への課題を探った。
男性の育休取得率を“0%”から“100%”にわずか4年で伸ばした企業がある。新潟県長岡市に本社を置く建築金具メーカー「サカタ製作所」(坂田匠社長)だ。社員数約150人のうち、7割が男性。かつては育休の取得どころか、長時間残業が常態化する職場だったという。
転機は、外部講師を招いて行ったワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の講演会。職場環境の向上に取り組まない経営層の姿勢を指摘され、その場で坂田社長が「残業ゼロ」を宣言したことから、働き方改革への機運が高まった。
「育休を取りたいが上司に言い出せない」という男性社員の話から、周囲の目や評価への不安を抱え、育休に踏み切れない実情も浮かび上がった。
イクメン評価でイメージを転換
同社では、こうした空気を払拭しようと社内改革に着手。対象者に育休取得を促すため、取締役と直属の上司との三者面談を行い、育休の取得期間や収入面などといった制度の内容についても周知を徹底した。
また、育児に取り組む社員や上司を「イクメン・イクボス」として表彰するなど、積極的な姿勢を高く評価。育休取得へのマイナスイメージを転換し、14年に0%だった取得率は18年に100%となった。昨年、約1カ月の育休を取得した男性社員は、取得期間中の育児体験によって、現在も夫婦で子育てに取り組めているという。男性は「共働きの世帯など、育休取得は必須だと感じている人は多いのでは」と語る。
女性活躍を下支え
一方、女性の活躍推進という観点から、男性の育休取得を進めてきたのが、小売業を中心に約5000人の社員を抱える株式会社丸井グループ(東京都)だ。
男性の育児への理解を深めることが、女性が長く働ける環境をつくるとの考えから、13年に男性育休100%の目標を掲げた。上司からの声掛けや、その人しかできない業務の解消、育休後も人事評価を引き継げる制度に加え、育休取得への手順などが記された「イクメンハンドブック」を作成。17~19年まで男性育休100%を継続している。
同社では、ダイバーシティー(多様性)を経営の重点テーマに掲げる。管理職の社員で構成される「多様性推進委員会」などで働き方改革や男女共同参画の取り組みを社内に波及させ、「育休を取るのは当たり前」という環境をつくっている。
両社の担当者は、「経営のあり方一つで、男性の育休取得は大きく進む」と口をそろえる。
制度は先進国で最高の評価
職場の雰囲気などが妨げに
日本の育休制度は、原則子どもが1歳になるまで取得できる。取得中は雇用保険の「育児休業給付金」によって収入の67%が支給されるほか、社会保険料の免除など休業前の収入と比べても実質8~9割程度が補償される。
国連児童基金(ユニセフ)が昨年発表した報告書「先進国における家族にやさしい政策」では、日本の制度は最も高い評価を受けている。しかし、“充実した制度”がなぜ利用されないのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが17年に行った調査からは、男性が育休を取得しなかった理由に「業務が繁忙で人手不足」「職場の雰囲気」などが挙がり、現実とのズレが指摘された。
労働経済学が専門の山口慎太郎東京大学教授によると、男性の育休取得率が7割を超えるノルウェーでは同僚や兄弟、上司が取得した場合に取得率の向上がみられたという。同教授は、社会や企業の積極的な育休促進が取得の連鎖を生むと強調した上で、収入減を懸念する声も多いことから、「少なくとも1カ月、収入の100%を補塡するなど、制度の見直しが必要だ」と指摘している。
給付金の増額など公明が拡充を訴え
公明党は、両親ともに育休をした場合、特例として1歳2カ月まで育休を取得することができる「パパ・ママ育休プラス」の創設など、男性の育休促進に向けた取り組みを推進。子どもが生まれた直後の父親の休業を義務化することで取得率向上につながる「男性産休」の導入も提案している。
先月29日には、衆院本会議の代表質問で石井啓一幹事長が男性の育休制度について、企業から従業員への積極的な周知や、休業前賃金の実質100%をめざした給付金の増額を求めた。