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コラム「北斗七星」
「新米にまだ草の実の匂ひ哉」(蕪村)。今年も故郷・秋田から産地直送の特別栽培米「あきたこまち」の新米が届いた。贈り主は85歳になる叔母。「元気な証しだから」と言う好意を断れず、5年目を迎えた◆それにしても、新米を炊いたご飯の香りとほのかな甘味は格別だ。「新米を炊く古釜の蓋そびえ」と新米に心を寄せたのは高浜虚子の門下生、爽雨。俳人日野草城に師事した信子は「新米をこぼしうつむく風の昼」とおいしさを詠んだ◆農林水産省によれば、新米の全国作況指数は「平年並み」。害虫による被害報告(17日付本紙)がある西日本は四国を除き平年を下回り、北海道、東北、北陸は「やや良」に。収穫量は主食用米で昨年より9万トン増え735万トンとなる見通しという◆ところが、だ。今年産のコメは相当余るらしく、来年は主食用米56万トン、水田面積にして10万ヘクタールも減らさねばならぬと聞く。減産幅は過去最大で、人口減少や食の多様化に、コロナ禍による中食・外食の消費量減少が追い打ちをかけたのだ◆ちなみに商業用に限れば、1~8月のコメの輸出量は前年同期比で2割増に。「穫れた歓びにせよ、食べた歓びにせよ、等しく賞翫の心が第一」とは、山本健吉が『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫)の「新米」に記した一文だ。コメを守り、そのおいしさを伝え広げたい。(田)