ニュース
コラム「北斗七星」
今回のコロナ禍をきっかけに、行政手続きや民間契約のデジタル化が大きく進もうとしている。中でも国民生活に密接に関わるのが書類への押印を廃止する「脱ハンコ」化の動きだ。菅首相は先日、全省庁に押印廃止など行政手続きの見直しに向けた方針をまとめるよう指示した。来年1月の通常国会に法案を提出する考えだという◆役所に年間1万件以上の申請がある手続きのうち、押印が必要なものは820種類に上る。この多くで押印がいらなくなれば、自宅でオンラインの申請も広がり、利便性が高まる◆歴史を紐解くと、日本でハンコが庶民まで広がったのは江戸時代のこと。明治になると、偽造の不安があるハンコに代えて姓名の自署、つまりサインを採用しようという動きが起きた◆だが、庶民には字の書けない人も多かったことや、当時の大蔵省や銀行が、多数の書類に自署するのは面倒だと反発したためサインへの転換は挫折。現在まで続く「ハンコ万能主義」が築かれたという(新関欽哉『ハンコの文化史』)◆デジタル化によって、そうした習慣がやっと変わろうとしている。一方で、デジタル化に不安を持つ高齢者への対応やセキュリティーの確保など課題も多い。効率化だけにとらわれず、真に国民に利益をもたらすシステムづくりが望まれる。(千)