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コラム「北斗七星」
「澄む時はあくまで澄んで秋の空」(正岡子規)。突き抜けるような秋空が広がった56年前の10月10日。アジア初となる東京五輪の開会式が国立競技場で挙行される◆市川崑総監督による公式記録映画『東京オリンピック』を改めて視聴すると、世界94カ国・地域の選手団が整然と入場行進する姿が。厳粛な雰囲気の中にも、晴れやかな表情や隣同士で談笑する様子などを超望遠レンズを駆使し映し出す。そして聖火リレーの最終走者が特設階段を登りきり聖火台に点灯すると歓声は最高潮へ◆では映画づくり全体への目線は、どこに置かれていたのか。「オリンピックは、人類の持っている夢のあらわれ(中略)人類が人間として全く平等であろうとする信念」(今春発行の『映画「東京オリンピック」1964』、復刊ドットコム)が脈打つものという言葉がヒントになろう◆来夏に延期された東京五輪・パラリンピック。メイン会場となる新国立競技場は先の大戦のさなか、学生を戦場に送る学徒出陣が降りしきる雨の中挙行された地。忘れてはならない、43年10月21日のことだ◆同出陣から77年という節目の今。映画のエンディングで、“平和を夢で終わらせていいのであろうか”というメッセージには、戦争を記憶する世代から未来世代に託そうとした思いが胸に迫る。(照)