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接触確認アプリ 導入3カ月
陽性者の発見に効果
通知あれば無料でPCR検査
新型コロナウイルスの感染リスクを手軽に知るための有効な手段として、6月に提供が始まった厚生労働省のスマートフォン(スマホ)向け接触確認アプリ「COCOA」。導入から3カ月が過ぎて成果が表れている一方で、さらなる普及に向けて越えるべき課題もある。現状を探った。
COCOA
政府が民間と共同で開発。利用者は新型コロナの陽性判定を受けた際、保健所から発行される「処理番号」を入力して陽性登録する。陽性登録が完了すると、過去14日間で1メートル以内に15分以上の接触があった全てのアプリ利用者に通知が届く。通知される内容は、陽性者と接触したかどうかだけで、個人や場所が特定されることはない。
COCOAの利用者は原則、陽性者との接触通知を受けた場合に、希望すれば無料でPCRなどの行政検査を受けることができる。
以前は行政検査の対象であるかが曖昧で、接触通知があっても症状がなければ検査不要と判断されるケースもあった。そのため厚労省は8月21日、接触通知があった場合には症状の有無にかかわらず行政検査で対応するよう自治体に要請している。
8月末に接触通知を受け取った30代男性は、「迷いもあったが、家族や職場の安心のためにPCR検査を受けた。白黒はっきりして良かった」と話していた。
こうした中、全国の保健所などでは、COCOAで接触通知を受けた人からの相談が増えている。東京都内にある全31の保健所を対象に実施された調査では、8月17日から9月6日までの3週間に7042件の相談が寄せられた。
このうち、検査を実施したのは3292件、うち陽性数は7件だった。陽性者の中には接触が推定される日に「外出していない」と答えるなど、接触の自覚がない人もいたという。同調査を行った北区保健所(東京)の前田秀雄所長は、「疫学調査だけでは探知できない陽性例が見つかった」とCOCOAの効果を評価している。
不具合には速やかに対応
ダウンロード数は1778万件
さらなる活用に向けて課題もある。COCOAのダウンロード数は1778万件(9月30日現在)と、普及率が2割以下にとどまるところだ。人口の4割が利用し、接触通知を受けた人が外出を6割控えれば感染者数を半減できるとの試算(日本大学)もあり、一層の周知が必要だ。
既に修正版アプリの配布が始まっているものの、この間、不具合の報告も相次いでいる。
厚労省には8月以降、接触通知があってアプリを開いても「接触は確認されていない」と表示されるなどの問い合わせが多数寄せられた。
前出の前田所長は、不具合によって感染とは無関係の人からの相談が増えれば、保健所機能の破綻につながりかねないと懸念を示し、「システムを早急に改善し、感染者を効率的に発見する実効性ある制度を求めたい」と指摘する。
アプリの利便性向上をめざし厚労省は、利用者から不具合などの動作情報を集める仕組みを新たに設け、不具合が生じても速やかに対応できる体制を整えるとしている。
感染症対策の有力ツール
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 藤田卓仙 氏
COCOAに関する政府の有識者検討会合に参加する、「世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター」の藤田卓仙氏(ヘルスケア・データ政策プロジェクト長)に話を聞いた。
COCOAは潜在的な感染者の発見に貢献し、感染症対策の有力なツールであることは間違いない。一方、エラーが相次いだことで、本来の利点が国民に見えにくくなってしまった側面もある。運用改善を図り、透明性ある情報提供を地道に続けていくしかない。
約1800万件というダウンロード数は、日本と同じ時期に接触確認アプリを導入したドイツと比べても悪くない数字だ。国民の6割が使わないと意味がないなどの指摘もあるが、必ずしも適切ではない。むしろ大事なのは陽性者の登録件数で、この数字が極端に低いことが日本の課題だ。
日々の新規感染者が数百人単位で推移しているにもかかわらず、COCOAによる陽性者の登録件数は合計で900人台(9月30日現在)にとどまる。周囲に知られるのを恐れて登録をためらうなどの原因が考えられる。
政府には、プライバシー保護を徹底していることを丁寧に説明するとともに、陽性登録がしやすくなるような利用者への配慮を求めたい。