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若年性認知症 課題探る
65歳未満で3万5千人
65歳未満で発症する若年性認知症の人は、全国で3万5700人――。これは、東京都健康長寿医療センターが先月公表した推計だ。調査では、約7割の人が退職を余儀なくされていたことも判明した。高齢期とは異なる若年性認知症の人が抱える課題や、支援のあり方を探った。
退職7割、就労支援欠かせず
調査は2017~19年度に、北海道、東京、大阪など12都道府県で、1万6848カ所の医療機関や介護事業所、相談機関などを対象に行った。厚生労働省による前回調査(06~08年度)の3万7800人から2100人少ないが、同センターは「若い世代の人口減によるもの」とみている。
原因となる疾患は、前回は「脳血管性認知症」が約4割でトップだったが、今回は「アルツハイマー型」が5割を超え最多に。また、6割の人は発症時には就労していたが、そのうち7割の人が調査時点で退職していたことも分かった。
家族含め精神的サポートも
「若年性認知症の人が抱える一番の課題は就労だ」。こう話すのは、日本認知症ケア学会理事長で東京慈恵会医科大学の繁田雅弘教授(精神医学講座)だ。
今回の調査でも、退職によって約6割の人が世帯収入の減少を挙げ、主な収入が障害年金や生活保護になっていることが明らかになった。「子どもの進学など教育費もかかる年代。今までの生活が維持できなくなることに対して、本人は非常に悔しい思いにさいなまれる」(繁田教授)。家族の戸惑いも大きい。精神的ストレスから、うつ状態になるケースも多いという。
このため繁田教授は、当事者に対する経済的支援とともに、家族も含めた精神的なサポートが重要だと指摘する。「例えば、認知症の遺伝はごく一部であることなど、認知症に関する知識が一層普及していけば、当事者の親を持つ子どもの不安解消にもつながるだろう」と話している。
都内の専門リハビリ施設
心の喪失 埋めるケア
06年に国内初の若年性認知症と高次脳機能障害専門リハビリ施設として開設された「いきいきがくだい」(東京都目黒区)。区内外の40~65歳くらいまでの人を対象に、地域清掃や見守り活動、各種レクリエーションなどを行っている。来所者の多くは男性で、現在は約30人が通う。
「1人でいると一日中、誰とも話さない日もあるんだ」。来所していた50代後半の男性が打ち明ける。若年性認知症の人は必要な支援にたどり着けず、社会から孤立しがちだ。また高齢期の認知症とは異なり、体力もあって活動的なため、高齢者が通うデイサービスではなじめないことも多い。このため62歳の男性は、「ここでは皆、共通の問題を抱えていて互いに分かり合える。だから居心地がいい」と話す。清掃活動なども「何らかの形で社会とつながれることが励みになる」(66歳男性)と好評だ。
取材中、来所者とスタッフとの間でこんなやり取りがあった。清掃活動に話が及ぶと、60代前半の男性が「清掃は始めて何年になるのかな?」と口にした。話題が変わった数分後、その男性は再び「清掃は何年になるの?」と話す。約30分の間に同様の質問を4回。スタッフはその都度、「もう10年以上になりますね」と丁寧に応じていた。
施設を運営するNPO法人「いきいき福祉ネットワークセンター」の駒井由起子理事長は、「社会や家庭で大きな責任を担っている世代が認知症を発症すると、その責任が果たせなくなる。家族も含めて心の喪失感を埋めるケアが大事だ」と強調している。
基本法案成立に全力尽くす
公明党認知症施策推進本部長 古屋範子 副代表
今回の調査は、前回よりも対象地域を広げており、より精緻で、実態に近い結果を得ることができたと思う。これを正面から受け止め、若年性認知症の人々に向けた政策立案に、さらに力を入れていきたい。
若年性認知症を発症しても、会社の部署異動で仕事を継続できることもある。職場の理解は非常に重要だ。一人一人に応じた就労や社会参加の場をつくらなければならない。そのために就労支援をはじめ、さまざまな支援策に結び付けていく「認知症コーディネーター」の存在は重要で、拡充が求められる。
公明党の認知症施策の基本は、一貫して「当事者中心」だ。党推進本部でも各地で視察や当事者との意見交換を重ねている。寄せられた声は可能な限り反映して、昨年6月、与党として認知症基本法案を提出した。公明党の主張で若年性認知症の人の就労支援も明記している。認知症になっても安心して希望を持って暮らせる共生社会を築くために、次期国会での成立に全力を尽くす。