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2020年8月12日

コラム「北斗七星」

夏目漱石の門下生、寺田寅彦が著した、記憶に残る一文がある。「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた」。小宮豊隆編『寺田寅彦随筆集』(岩波文庫)の第5巻にある◆物理学者であり、かつ著名な随筆家だった寺田は85年前の8月、軽井沢に滞在していて2度、浅間山の噴火に遭遇した。この時の社会の反応を観察し痛感したのが“正しく怖がることの難しさ”だ。現在の「正しく恐れよ」の依拠となったのは有名である◆それにしても、お盆休みに怖がることの難しさを再認識させられるとは思わなかった。東京から帰省した男性の実家に中傷ビラが置かれていたのだ。「さっさと帰って下さい」と。10日夜、民放が報じた◆人心が分からぬわけでもない。実際、コロナ禍で「帰省を自粛すべき」とした人は、最も少ない近畿でも67%だった(10日付『読売』)。とはいえ、ビラを置く行為は正当か? 「こわがり過ぎたりするのはやさしい」ことである。ちなみに、男性は帰省前のPCR検査で陰性だったと聞く◆寺田は噴火の型について、「言葉ではみんなただの『爆発』になってしまう」と嘆いている。訳あって帰省する人もいよう。肝心なのは自身を律する行動と思いやりだ。社会が試されている。(田)

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