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被爆75年広島から伝える(下)
核兵器のない世界へ
市民社会の連帯が力に
日本は被爆国としての独自性示せ
反核運動を促進する世界の地方自治体で構成される国際機構がある。今月1日時点で、世界164カ国・地域の7921都市が加盟する「平和首長会議」が、それだ。広島市に事務局を置き、広島、長崎両市長が会長、副会長を務める。
この平和首長会議の事務総長で、広島平和文化センター(広島市)の小泉崇理事長(69)は、市民レベルの機運醸成と連帯の拡大に向けて「1万都市の加盟をめざす」と語る。
核兵器を含む安全保障の問題は、国レベルの専権事項だと考える自治体は少なくない。だが、核兵器が使用されれば、被害を受けるのは一般市民だ。小泉理事長は「為政者を動かす市民社会の連帯が何よりの力になる。加盟都市の首長が主体性を持ち、各国の政府に強いメッセージを発していかなければならない」と話す。
平和首長会議は、2017年に採択された核兵器禁止条約にも深く関与してきた。核廃絶の検証は核保有国が関わらない限り、実効性がないため、条約発効後に開かれる締約国会議で検証措置を付け加える仕組みにした。これは、締約国会議に保有国をオブザーバーとして招き、「一緒につくりましょう」というメッセージを含ませているのだと、小泉理事長は説明する。
現在、批准国は40カ国を数え、発効まで残り10と迫った。「核兵器はいらない、と世界の市民が声を上げ、結束していくことが力になる」と訴える。
核兵器禁止条約に関しては、核廃絶をめざす学術研究機関である広島市立大学・広島平和研究所の大芝亮所長(66)も「中小国とNGO(非政府組織)のネットワークで核軍縮を進めることは重要な選択肢の一つ」と期待を寄せる。対人地雷禁止条約(1999年発効)やクラスター弾禁止条約(2010年発効)を含め、いずれも中小国とNGOが連携し、軍縮を進めてきた歴史的事実があるからだ。
その上で、日本政府は「被爆国としての役割意識を喪失しているのではないか」と指摘する。日本は人間の尊厳を重んじる「人間の安全保障」の理念を掲げ、人道大国をめざしてきた一方で、米国の「核の傘」による安全保障論(拡大抑止)を展開してきた。これにより、市民の間でも「核の傘」論が浸透してきている。「被爆国としての意識の弱体化がある」と危惧する。
反核兵器意識の低下は、東京などの若い世代で見られる。ただ、被爆地・広島では「核兵器廃絶を真剣に求める次世代が積極的に活動していることも事実だ」と大芝所長。被爆者の高齢化が進む中、核廃絶を掲げた平和教育、平和学の進展に活路を見いだしている。
被爆75年。そして冷戦終結から約30年。世界には、今なお推計1万3400発の核弾頭が存在する(ストックホルム国際平和研究所)。現在、米ロ両国間では新たな核軍拡競争が再燃している。爆発力を抑えた低出力核兵器などの開発・配備が進み、“使える核”への懸念が高まる。また、新型コロナの影響で延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議の行方も全く予断を許さない。核兵器禁止条約を巡る核保有国と非保有国の対立は深刻だ。しかし、混迷する世界の中で被爆地ヒロシマは「核兵器のない世界」の実現を決して諦めることなく歩みを進めていく。
【この連載は中国支局の森岡陽介が担当しました】











