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豪雨被災地のタイムライン 防災行動計画
住民の早期避難に効果
地域単位で危機感共有「顔の見える関係」つくれ
東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター
松尾一郎 客員教授に聞く
「令和2年7月豪雨」に見舞われた川沿いの自治体の中には、災害時に行政や住民が取るべき行動を時系列でまとめた「タイムライン」(防災行動計画)を導入している地域がある。今回の豪雨で減災効果は発揮されたのか。球磨川流域をはじめ、各地のタイムライン策定・運用に携わってきた東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの松尾一郎客員教授に聞いた。
――球磨川流域では水害タイムラインを導入していたと聞く。
松尾一郎客員教授 球磨川は全国3大急流河川の一つで、数十年に1度、水害に見舞われてきた。そこで、流域の自治体が中心となり、河川管理者である国や気象台、地元の消防、自治会など多数の防災機関と連携し、球磨川水害タイムラインを2015年に策定した。住民参加型の防災会議などを通じ「顔の見える関係」を醸成し、これまで前線や台風などの発生時に計26回にわたってタイムラインを運用。避難行動に向けた先手を打ってきた。
――今回の豪雨でタイムラインは役立ったのか。
松尾 球磨川流域の自治体は、梅雨入り直後の6月10日からタイムラインの運用を開始した。記録的豪雨が降った前日の7月3日午後4時にテレビ会議による運用会議を実施。気象専門家からの情報を基に、危機感を共有した。球磨村では3日夕方5時に「避難準備・高齢者等避難準備開始情報」を出し、避難所を開設、早期避難を呼び掛けた。
渡地区では、半数の270世帯近くが浸水被害に見舞われたが、ほとんどの住民は高台や避難所などに逃げていた。地元の消防団員からは、「タイムラインなどの取り組みが生きた」と聞いた。今後、住民からの聞き取り調査を行い、検証は必須だが、タイムラインによる減災効果はあったと見ている。ただ、避難計画を策定し避難訓練も行ってきた特別養護老人ホーム「千寿園」で入所者14人が亡くなるなど課題はある。詳細な検証が必要だ。
――全国的に見ると、国管理の河川流域にある約730自治体で避難勧告などの発令に着目したタイムラインが導入済みだ。
松尾 タイムラインは、使わないと意味がない。導入している自治体は、地域にどれだけ浸透しているか、また、関係機関と「顔の見える関係」をどの程度築けているのか。再度確認してほしい。
自助・共助の視点で言えば、自治会や自主防災組織の単位で住民の防災行動を示す「コミュニティ・タイムライン」が有効だ。東京の荒川流域にある板橋区舟渡地区や足立区中川地区などで積極的に取り組んでおり、参考にしてほしい。球磨村渡地区でもコミュニティ・タイムラインは作っており、その取り組みが生きた。
――住民は自治体の避難情報で避難を始めることが多い。
松尾 昨年の台風19号で被災した自治体の防災担当者に発災直前の状況を聞くと、気象状況が悪くなる数日前に“危機”を自覚していたものの、災害対策本部の設置や避難勧告の発表は出遅れている地域が多かった。
そのこともあって愛媛県の肱川流域や長野県などの千曲川流域では、気象台や河川管理者が市町村の判断や意思決定を支援する流域防災タイムラインの策定が始まった。水害が激甚化する中で、流域視点で防災連携体制を強化して、危機感の共有を進めることが減災への近道であると考えている。国は、先も見越して早めに防災対応ができる災害対策基本法改正をめざしてほしい。
またタイムラインの導入・運用、検証を行うため、自治体の防災担当職員らが専門的に研修できる仕組みづくりも必要だ。









