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コラム「北斗七星」
日本最南端の波照間島で、戦争体験を聞いたことがある。女性は、家族16人の死亡届を一人で書いた。太平洋戦争末期、軍の命令で八重山諸島の住民がマラリア感染地に強制疎開させられた「戦争マラリア」。もう一つの沖縄戦だ◆米軍上陸を前に、軍の足手まといになる、情報が漏れる、との理由だった。一家は西表島のジャングルで4カ月暮らす。帰島後、全員が発病した。「次から次に家族が死に、早く遺体を家から運び出さなければと……」。記者も女性も下を向いたまま、扇風機だけが回っていた。24年前の取材だ◆沖縄はきのう、地上戦の終結から75年を迎え、糸満市摩文仁の「平和の礎」は祈りに包まれた。石碑には、国籍や軍民の区別なく、全戦没者の名を刻む。戦後50年に建立された◆刻銘に際し、地域ごとに体験者が集まり、記憶をたどった。一家全滅や、出生届の前に死んだ赤ん坊もいる。「〇〇の長男」などと刻銘された。それほどの犠牲を強いた地上戦である◆今年、新たに30人の名前が刻まれた。総数24万1593人、5歳以下の追加刻銘は6人、と書きながら、川崎洋さんの詩『存在』を思い出した。<「二人死亡」と言うな/太郎と花子が死んだ と言え>。家族と、友と、恋人と、一日でも長く生きたかったであろう命である。命の数だ。(也)









