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コラム「北斗七星」
「打ち揚ぐるボールは高く雲に入りて又落ち来る人の手の中に」。無類の野球好きだった俳人正岡子規が詠んだ歌だ。憧れの甲子園球場に高校球児が戻ってくると聞いて、この一首を思い出した◆96年前に誕生した春の選抜高校野球大会。戦時下の中断を除き初の中止となった同大会だったが、今夏、代表32校が甲子園の土を踏めることになった。「聞いた瞬間、鳥肌が立った」。ある出場校チームの選手の一言が全てを物語っていよう◆青春を懸け白球を追う全力プレー。一投一打にどよめくスタンド。だが今回は各校1試合だけの交流試合形式だ。現段階では無観客実施とも聞く。とはいえ、「今やかの三つのベースに人満ちてそゞろに胸の打ち騒ぐかな」(『正岡子規』所収/筑摩書房)との高揚感は変わるまい◆兵庫県立芸術文化センター芸術監督の佐渡裕氏は恩師で世界的指揮者、バーンスタインの言葉を記している。「生涯で最も誇るべき仕事は子どもたちの音楽会をつくったことだ」。氏の『棒を振る人生』(PHP新書)にある◆コロナ禍を受け氏はプロジェクトを立ち上げ映像を募り、参加者にサイン入りポストカードを贈呈。阪神タイガースらは全国の野球部所属の高3生に甲子園の土入りキーホルダーを贈ることを決めた。願いを捉える感性と行動を、社会は求めている。(田)