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コラム「北斗七星」
地下鉄に乗り込んですぐホームの方を向いた。白杖を持つ男性がホームにいた。ドアの近くだ。声を掛けようか、迷ううちにドアが閉まった。少し後悔した◆吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』に、後悔についての話がある。主人公は中学生の本田君。友だちの1人が上級生に目を付けられる。本田君ら3人は彼を守ろうと約束した。彼がなぐられた。2人は体を張ったが、本田君は勇気が出ず、黙って見ていた◆心底悔いる本田君に、母は女学校時代のことを話す。よく通る石段におばあさんがいた。重そうな荷物を提げて休み休み上がる。助けようと思いながら結局、声を掛けられなかった。後悔したが、いやな思い出ではない。以後、温かい気持ちを行いに表すようになったから◆後悔は、その後の行い次第で良い思い出に変えられる。北斗子も、白杖を使う人を見ると声を掛けるようになった。「いいです。ありがとう」と断る人も多いが、構わない。「助けてくれる人がいる」と感じれば、より外出しやすくなるかもしれない◆いろんな経験をして成長する本田君。物語の最後に、皆が友だちであるような世の中をめざそうと決意する。吉野は本田君の考えを示し、作品をこう結んだ。「みなさんにおたずねしたいと思います。――君たちは、どう生きるか」(直)