熊本地震10年と創造的復興
熊本地震の発生から10年を迎えた。2016年4月14日の前震、同16日の本震と震度7を2回記録する前例のない災害で、大きな被害をもたらした。この10年間の歩みを振り返るとともに、熊本地震からの復興へ向けた公明党の取り組みについて、前熊本県知事の蒲島郁夫・東京大学先端科学技術研究センターフェローに聞いた。
■逆境の中にこそ夢がある/本震2日後に未来像示す
――知事として復興にどう取り組んだか。
蒲島郁夫・前熊本県知事 熊本地震の発生後、豪雨災害、新型コロナウイルスの感染拡大と困難の連続だった。ただ、「逆境の中にこそ夢がある」というのが私の信念で、危機管理を受け身ではなく、ピンチをチャンスに変えることができると捉えて活動してきた。
特に災害対応において大事なことは、リーダーが素早く方向性を示すことだ。
熊本地震の本震から2日後、私は①被災者の痛みの最小化②単に元の姿に戻すのではなく、震災前よりも良い形をめざす創造的復興③熊本のさらなる発展――の復旧・復興の三原則を示した。米国の政治学者サミュエル・ハンティントンが唱えた、人々の期待値に実態が追い付いていないと、不満が高まるという「ギャップ仮説」を基に考えたもので、不満が出ないよう先手先手の対応を心掛けた。
――具体的には。
蒲島 自衛隊の機動的な動きによる被災初日の人命救助、2~3日目の水・食料配布、その後の避難所の運営、住まいの確保など被災者が抱く期待に先んじて、その期待を上回る対応をスピーディーに進めてきた。
災害は人命救助や地域社会の痛みを最小化するような短期的対応も大事だが、未来志向を失わずに中長期的な目標を掲げることも重要であり、それが住民の希望となる。
災害対応には明るさを失ってはならない。リーダーが住民の気持ちを支えるような希望ある復興計画を作り、その計画の遂行を行政と住民が支え合うことが、災害対応にとって重要だ。
■陸海空の玄関口が新しく/半導体産業集積など発展
――現在の熊本の復興をどう見るか。
蒲島 単なる復旧を超えて新たな発展へとつながっている。熊本の将来の姿を明確に描いた上で対策に取り組んできた結果だ。
例えば、インフラと生活の早期再建。発災後2年以内に災害廃棄物の処理を完了させるという高い目標を達成し、住まい・なりわいの再建、道路復旧を早めた。阿蘇へのアクセスルート(新阿蘇大橋など)も異例の5年というスピードで復旧させた。
特に陸海空の玄関口が新しくなった意義は大きい。益城町の道路の4車線化や熊本駅の建て替え、阿蘇くまもと空港の機能強化、くまモンを活用した八代港のクルーズ船拠点化など、単なる原状回復にとどまらない、街の価値を高める事業を次々と形にしたことに注目してもらいたい。
熊本城の復旧についても、政府に直談判して最大限の支援を引き出し、早期公開につなげられた。創造的復興のシンボルと言えよう。
――今後の展望は。
蒲島 未来志向で「創造的復興」を進め、道路や港などハード整備を行ってきたことが、結果として半導体受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の熊本進出という大きな成果を呼び込んだ。半導体産業の再興でシリコンアイランド九州という新たな局面を作ることができた。今後、熊本は創造的復興から、半導体産業という経済の“大きな華”を生かし、経済安全保障の一翼を担ってもらいたい。
一方で、家族や友人を亡くした心の痛み、傷は10年がたっても癒えることはない。「心の復興」へ、一人も取り残すことなく、寄り添う政治を行ってほしい。
また、震災の記憶や教訓の風化を防ぐ取り組みも大切だ。熊本地震では災害関連死が直接死を上回った。災害への対応を事前に全て準備することはできないが、起きた時にどう行動するか、想定外の事態への「対応力」がとても大事だ。熊本地震を経験した私たちから情報を発信することで、今後の日本全体の災害対応力の向上に結び付くと信じている。
■優しさと実行力を持つ公明/災害対応の蓄積、日本の財産
――公明党への評価は。
蒲島 震災時の公明党の対応には感銘を受けた。まず公明党の議員には被災者に寄り添う優しさがある。メディアが来ないような時期や朝早くであっても、公明党の国会議員は毎週、毎月のように何カ月も熊本に足を運び、地方議員と連携して現場の声に沿った対策を進めてくれた。首長や被災者と直接語らい、「誰一人取り残さない」との姿勢で真剣に声を聴き続けたのは公明党だけだった。
当時、公明党が政権にいたことは本当に心強かった。公明党は国土交通相を出していた強みを生かし、現場の声を吸い上げて約束を守り、政策を実行する力を示した。公明党のおかげで国と熊本県がスクラムを組んで災害対応ができたことに深く感謝している。
――今後の党に期待することは。
蒲島 弱者に寄り添う公明党がこれまで行ってきた災害対応の蓄積は日本にとって財産であり、今後の対策に欠かせないものだ。
特に政府は災害対策の司令塔となる「防災庁」の設置に向けて動いている。災害はこれからも起こり得るからこそ、防災庁を通じて日本が災害対応の世界モデルになることを期待したい。そこで公明党が培ってきた強みである経験を生かしてほしい。そのためには与党の自民党との関わりも大切であり、また必要とされる場面もあるだろう。
国際的には平和をいかにつくるかが問われている中、「人々の幸福の最大化」をめざす中道の理念が重要である。中道政治を掲げる公明党にとって今が拡大のチャンスではないか。
かばしま・いくお 1947年生まれ。米ハーバード大学大学院修了(政治経済学博士)。東京大学教授などを経て2008年に熊本県知事に就任し、24年4月に勇退。同月から現職。
