「外国人を逮捕しても、通訳を介するために手続きが滞り、多くの場合は勾留期限が来て不起訴になる」という趣旨の情報が広がっている。
さらに、高市総理も自民党総裁選挙期間中「通訳の手配が間に合わず不起訴になる」と発言していた。
しかし、現時点で確認できる公的情報や報道には、こうした主張を裏付ける事実は見当たらない。
制度の仕組みや実務運用を踏まえても、通訳遅延が原因で勾留期限切れとなり不起訴が常態化しているとは言いがたく、
あったとしても極めて例外的なケースにとどまると考えられる。
そもそも「外国人は通訳のせいで不起訴になりやすい」といった言説自体、外国人に対する差別的な偏見であり、事実に基づかない。
「外国人犯罪の不起訴多発」は、全くのデマである。
1. 高市総理の発言はすでに「事実なし」と確認済み
朝日新聞の報道によれば、高市総理の「通訳の手配が間に合わず不起訴になる」という発言について、
法務委員会で法務省がそのような事例は確認していないと答弁しています。
2. 裏付けとなる公的データ・報道は見当たらない
● 通訳が必要な外国人事件は確かに時間がかかることがある
司法通訳の質や確保の難しさは、学術研究でも指摘されています。
しかしこれは「取調べの難しさ」や「供述の正確性の問題」であり、
勾留期限切れによる不起訴多発を示すものではありません。
● 不起訴の理由は多様で、通訳遅延が主要因とは言えない。
外国人事件の不起訴理由として挙げられるのは、
・ 証拠の脆弱性
・ 示談成立
・ 外交的配慮
・ 供述の信頼性
・ 在留資格との関係
などであり、通訳遅延が主要因とするデータはありません。
● 「多くの場合」という表現を支える統計は存在しない
3. 制度上も「通訳遅延で勾留期限切れ」は起こりにくい
刑事訴訟法上、外国人被疑者には以下が義務づけられています
・ 逮捕時の権利告知の通訳
・ 取調べの通訳
・ 勾留質問・起訴状送達などの通訳
これらは「通訳が確保できないからできません」では済まない手続きであり、
捜査機関は通訳確保を前提に運用しています。
また、通訳人は全国に登録制度があり、警察・検察は常時確保の体制を持っています。
4. まとめ
以上を総合すると、
・ 高市総理の同趣旨の発言は法務省が否定
・ デマを裏付けるデータ・政府答弁・報道は見当たらない
・ 外国人事件の不起訴理由は多様で、通訳遅延が主要因とは言えない
・ 制度上も通訳確保は必須であり、勾留期限切れを常態化させる構造ではない
したがって、「多くの場合そうなる」という主張は、現時点で事実として確認できず、根拠が示されていない発言である。
※ 裏付けデータ
■ 犯罪白書(令和6年版) ▶ https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/71/nfm/n71_2_4_9_3_1.html
犯罪白書によれば、外国人事件の処理状況は以下の通り:
• 来日外国人被疑事件の終局処理人員:17,512人(令和5年)
• 起訴率は日本人と比較しても特段低くない(罪名により差はあるが、通訳遅延を理由とする不起訴の記述はなし)
■ 被告人通訳事件のデータ ▶ https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/71/nfm/n71_2_4_9_3_2.html
• 通訳が付いた外国人事件の終局人員:3,852人(令和5年)
• 有罪率は高く、通訳遅延による不起訴を示すデータは存在しない
■ 検察統計(e-Stat)▶ e-Stat
• 「外国人被疑事件の受理及び処理状況」
→ 起訴・起訴猶予の人数が国籍別に公開されているが、
不起訴理由に「通訳遅延」は存在しない
■ 犯罪白書によると日本人と来日外国人の起訴率は大差なし
■ 外国人犯罪の検挙件数の推移は、横ばいで2005年のピーク時から4割程度に減少している。
