解説ワイド 核論議とどう向き合うか 公明党の考え方(公明新聞2022/06/08 4面より)
ロシアのウクライナ侵略の中で、プーチン大統領は2月27日、核戦力を念頭に置いた抑止力の「特別警戒態勢」引き上げを命じ、4月27日には第三国が軍事介入すれば「われわれの反撃は稲妻のように素早い」と電光石火の対抗措置を執る構えを見せるなど“核による威嚇”とも取れる発言を繰り返した。これによって核使用の疑念が一気に高まり、日本でも核兵器とどう向き合うかを問う声が出ている。その中には米国との核共有を検討すべきとの意見も出た。こうした核論議に対して公明党が示している見解を紹介し、核廃絶論議に必要な課題について解説する。
■(非核三原則の堅持)国是として定着した“戦争被爆国”の誓い
日本は唯一の戦争被爆国として「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を国是として掲げている。しかし、ロシアのウクライナ侵略を契機に、米国の核兵器を日本が共同運用する「核共有」を求める意見が出てきた【『問題の背景』参照】。これに対し公明党はどう考えているのか。
山口那津男代表は5月1日に放送されたNHK番組「憲法記念日特集」に出演し、非核三原則と日本の安全保障について明快に訴えた。
「中国が核実験を行い、核武装論が声高に言われていた時代、国会での(非核三原則を含む)決議を提唱したのは公明党だ。『核共有』は、長年信頼されてきた日本の核廃絶、不拡散に向けた取り組みに不信感を芽生えさせ、核使用のリスクも高める。非核三原則を堅持し安全保障を全うしていくことが正しい道だ」
日本が戦争被爆国の誓いでもある非核三原則を葬ることで、世界に核拡散を広げ、核使用のリスクを高めてはならないとの主張である。
■(拡大抑止への依存)安全保障の基本政策、同盟の信頼性向上を
公明党は「核共有」には反対だが、北朝鮮の核開発など核を巡る安全保障環境の厳しさを直視している。
国家安全保障戦略(2013年12月閣議決定)は「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠」としているが、公明党はこの基本政策を支持している。大事なことは、米国の拡大抑止を機能させるために日本は何をすべきかだ。
山口代表は憲法記念日を前に5月2日に都内で行った街頭演説で「日本自身の防衛力を固め、日米同盟の抑止力を発揮できるようにしなければならない。米国の『矛』、日本の『盾』という役割分担を日米が互いに確認し、平和安全法制の下で日米同盟の信頼性を高めていく」と述べた。
16年施行の平和安全法制は防衛政策の基礎だ。これについて山口代表は党公式ユーチューブ番組「山口なつおチャンネル」で「公明党は憲法の精神を逸脱せず、日米が有事も平時も隙間なく日本の安全保障を全うできる法制を整えた」「日本を守るために活動する米軍に武力攻撃が行われた場合、自衛隊が反撃できるようになり、在日米軍が安心して活動できるようになった」と説明している。
公明党は現在、拡大抑止は認めているが、めざすのは「核兵器のない世界」だ。
5月18日に岸田文雄首相に手渡した「『核兵器の不使用の記録』の維持に向けての緊急提言」(緊急提言)の中で公明党は、「核抑止に代わる安全保障のあり方」論議を主導するよう政府に求めた。
■(廃絶に向けた論点)賢人会議が提起した“困難な問題”に挑む
「核抑止に代わる安全保障のあり方」論議がなぜ大事なのか。それは「核兵器のない世界」の実現には核保有国の理解が必要だからだ。
しかし、21年1月に発効した核兵器禁止条約(核禁条約=核兵器を国際法違反とした画期的な内容)を巡って、核保有国は条約反対で固まり、核廃絶に向けた議論ができない状況になっている。
これを打開するには、核保有国も非保有国も、そして日本など核保有国に自国の安全保障を依存している国々も共に参加できる“対話の場”を築く必要がある。そこで三者が最も関心を持つ核抑止論から議論を始めるために「核抑止に代わる安全保障」の議論に注目が集まっている。
このアイデアを明確に提起したのは、核禁条約をめざす議論の高まりを受けて外務省が17年に設置した賢人会議だった。核保有国、非保有国双方の民間有識者からなる賢人会議は19年公表の議長報告で、「核抑止論の核保有国」と「核廃絶論の非保有国」との橋渡しが必要であると主張し、そのために核抑止論など「困難な問題」に取り組むべきだと訴えた。公明党は賢人会議の主張を支持している。
賢人会議は20年3月から政府関係者も含めた「1・5トラック」となり、さらに岸田首相は1月、国際賢人会議の構想を国会で表明し、今年中を目標に第1回会合を広島で開催すると述べた。公明党は国際賢人会議で「核抑止に代わる安全保障のあり方」の検討をスタートするよう緊急提言で求めた。
■使用が前提の兵器に絶対させてはならぬ/党核廃絶推進委員長・浜田昌良参院議員に聞く
――なぜ公明党は、岸田首相に緊急提言を提出したのか。
浜田昌良委員長 プーチン大統領の“核による威嚇”発言があり、核兵器が使われるかもしれない。もしそうなれば核兵器は「使用することが前提の兵器」となってしまう。そんなことは絶対許さないとの思いからだ。
広島、長崎の原爆投下から今年で77年。1月に発出された「核不拡散条約(NPT)に関する日米共同声明」の冒頭でも確認されたが、「核兵器の不使用の記録」をここで途絶えさせてはならない。
そのために日本として今取り組むべき具体的な行動をまとめ首相に提案した。
――緊急提言の内容は。
浜田 第1は、核使用阻止へ「被爆の実相」をあらゆる場面で発信すること。具体的には今月開催の第4回「核の非人道性会議」への政府代表団派遣と、来年の主要国首脳会議(G7)の広島開催だが、両方とも実現する。
頭の体操のような机上の空論ではなく、「被爆の実相」に基づく非核の議論を深めるべきだ。
第2は、長期的な課題として「核抑止に代わる安全保障のあり方」を日本が主導し、今年中に広島で開催予定の国際賢人会議で検討をスタートさせること。
第3は、核保有国による核兵器禁止条約への理解を醸成することだ。
――現実は核抑止の必要性を訴える議論が多い。
浜田 逆にそれが核の拡散を助長し得ると言いたい。賢人会議(外務省が17年設置)も19年公表の議長報告で、核抑止を「世界の安全保障にとって危険な基礎」と指摘した。ただ、北朝鮮の核開発が続く中、今すぐ核抑止をやめることはできない。
公明党は核抑止の基礎である日米同盟の信頼性向上だけでなく、安全保障を支える防衛と外交のうち、多面的軍縮など、わが国の外交力の強化も訴えていきたい。
■問題の背景
ロシアが2月24日、ウクライナ侵略をしたことに対し、国連総会は3月2日に緊急特別会合を開き、ロシア非難決議を加盟国193カ国のうち141カ国の賛成で採択した。
こうした国際世論を背景に、欧米諸国はウクライナへの軍事支援を進めているが、ロシアはそれに強く反発。プーチン大統領は4月27日に欧米諸国が脅威を与えようとした場合「電光石火で対抗する」などと発言し、世界は今、核戦争の可能性に直面している【イラスト】。
こうした状況の中、日本でも核を巡るさまざまな議論が出ている。例えば、安倍晋三元首相はロシアのウクライナ侵略直後から「いろんな教訓を得なければいけない」と述べ、日本への核攻撃を抑止するため、米国の核兵器を日本に配備して共同運用をする「核共有」政策を議論すべきだと訴え、波紋を広げた。
これに対し岸田文雄首相は「核共有」について、核に関する政府の基本方針【表】に基づき「認められない」と即座に否定。その一方で、一部野党には「非核三原則は昭和の価値観」として「核共有」の議論をすることに賛同する意見もある。