世界の危機と日本の役割
国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満泉氏に聞く
公明新聞2024/09/21 3面より
ロシアによるウクライナ侵略、ガザ地区での戦闘など世界各地で紛争が続き、核軍縮の動きも停滞している。今、世界はどこへ向かおうとしているのか。平和や軍縮に向けて日本、そして私たち一人一人にできることは。国連で軍縮部門のトップを務める中満泉氏に聞いた。
■核使用のリスク高まる
――世界の現状をどう見るか。
残念ながら明るいニュースは少ない。非常に厳しい国際安全保障環境がさらに悪い方向に進んでいる。二つの大きな戦争があり、スーダンやミャンマーでも内戦が続き、人道危機が生じている。核兵器が使用されるかもしれないリスクは冷戦のピーク時以来、最も高くなっているにもかかわらず、全ての保有国が核兵器の性能を高めるため莫大な費用を投じている。
サイバー空間や宇宙空間など、人間の活動領域が広がったことで新たなテクノロジー競争が始まっており、いくつも憂慮すべき状況が生まれている。例えば、AI(人工知能)が核兵器の指揮系統に組み込まれた場合、どういったリスクが生まれるのか予測できない。軍縮と安全保障を巡る環境が大きくパラダイムシフト(価値観の劇的変化)しつつある。
■未来サミットで軍縮への転換めざす
――22日から国連で未来サミットが始まる。日本では、これに向けたイベント「未来アクションフェス」が開催された。
若者たちの関心は高く、日本からも若者たちが未来サミットに来てくれるそうだ。これから彼らが住み続ける地球の未来がテーマなので、若者が関わっていくべきだし、当然の権利だ。
未来サミットは、現在起こっている軍拡の傾向を再び軍縮へ方向転換するための機会の一つだが、全加盟国で採択する成果文書「未来のための協定」を巡ってギリギリの調整が続いている。気候変動や国際金融機関の改革など、いくつか合意が得られていない分野があり、核軍縮もその一つだ。グテレス事務総長をはじめ、私も各国と電話外交を重ね、全会一致で採択されるよう努力を続けている。
■被爆国から発信続けて
――核兵器廃絶へ日本に期待する役割は。
唯一の戦争被爆国である日本は、他国から、その発言が重く受け止められるモラルオーソリティー(道徳的権威)と言うべき存在だ。特に被爆者の方々の活動は非常に大きな影響力がある。日本は、その非常に戦略的なポジションを生かして、核軍縮のための発言を続けてもらいたい。
極東アジアの安全保障環境は特に難しいが、思い起こしてほしいのは1962年のキューバ・ミサイル危機だ。核戦争の一歩手前まで迫った米国のケネディ大統領とソ連のフルシチョフ首相は、軍拡を続けることは決して自国の安全保障にとってプラスにならないことを悟り、対話外交、軍縮の方向へ向かった。部分的核実験禁止条約の締結は、キューバ危機から1年にも満たない。
厳しい情勢だからこそ、日本はさまざまな外交努力を通じて、軍縮を安全保障のツールとして使っていくべきだ。
■アジア版OSCE、公明の議論に期待
――公明党は、戦後・被爆・国連創設80年の節目を迎える来年の春をめどに、核廃絶などを柱とする新たな「平和創出ビジョン」を策定する。その中で、アジア版OSCE構想についても議論する予定だ。
アジアにOSCEのような安全保障を話し合う地域機構を創設するアイデアについては、かねてより私も注目しており、それが日本から提言されることには大きな意義がある。
OSCE設立には、長い信頼醸成のための対話や交渉があって、それが冷戦後に組織化された経緯がある。アジア版OSCEにおいても、まずは関係諸国が全て集まって定期的に対話するプラットフォームから始め、少しずつ制度化していくなど、どうすれば実現可能なのか、ぜひ活発に議論してもらいたい。
■希望こそ社会変革の力
――平和や軍縮へ、私たちにできることは。
平和や安全保障、軍縮は、ともすると専門的な世界だと思われるかもしれない。しかし、これまで軍縮へ状況が動いた時には、背景に必ず市民社会からの大きな声があり、それがモメンタム(勢い)となってきたのが歴史的事実だ。
近年では核兵器禁止条約がそうだし、対人地雷禁止条約(オタワ条約、1999年発効)については、私は実現は無理だろうと思っていたが、市民社会といくつかの政府が連携して、瞬く間に世界を動かしていった。こういったことは何度も起きている。市民の声で世界が変えられるということを、どうか信じてもらいたい。
――若い世代へメッセージを。
日本の若者は「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答える割合が諸外国と比べて非常に低い。暗いニュースばかりかもしれないが、だからといって「世界はもうダメだ」と絶望したり、諦めてしまわないでほしい。私は“希望を持ち続けること”自体が、社会変革の力になっていくと信じている。
その上で、ぜひ世界の出来事に興味を持って勉強し、家庭や学校、職場など自分たちのコミュニティーで「自分はこう思う。あなたはどうか」と議論してほしい。多くの仲間とつながり、声を上げてくれることを期待している。
なかみつ・いずみ 1963年、東京都生まれ。早稲田大学卒、米ジョージタウン大学大学院修士課程修了。89年に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に入所。国連平和維持活動(PKO)局アジア・中東部長などを経て、2017年に日本人女性で初の国連事務次長に就任。2女の母。