生活者守る改革を前へ
山口代表、石井幹事長の代表質問から
公明新聞2023/10/29 1面より
公明党の山口那津男代表と石井啓一幹事長は25、26の両日、衆参両院の本会議で岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問を行いました。急激な物価高騰や深刻化する少子高齢化、強化が急がれる外交・安全保障など直面する問題の克服に向け、公明党が訴えた主張のポイントと、識者の声を紹介します。
■(経済対策)所得減税、給付金、地方交付金、“3つの還元策”で家計支援
物価高の克服に向けて石井幹事長は「持続的賃上げが広く波及するには一定の時間が必要」と指摘し、家計への支援策として税収増を国民に還元する“3つの還元策”の実施を訴えました。具体的には、①所得税の定額減税②低所得世帯への給付金③電気・ガス料金、ガソリン代などの補助の来春までの延長と、自治体が物価高対策に使える「重点支援地方交付金」の増額――を提案しました。
岸田首相は「国民の可処分所得を下支えし、物価高による国民の負担を緩和したい。税収増分の一部を分かりやすく国民に還元できればと考えている」と応じました。
重点支援地方交付金の増額に関しては、山口代表も「生活困窮者や中小事業者などに十分な支援を実施し、低所得世帯や子育て世帯へ給付措置を行うため大幅に積み増すべきだ」と強調しました。
中小・小規模事業者の持続的な賃上げの実現へ、山口代表は、価格転嫁を推進する政府指針の作成や、生産性向上に関する補助金の上乗せ、資金繰りを支援する低利な政策金融の実施などを主張しました。中小事業者への支援について岸田首相は「(公明党の)提言も踏まえて取り組む」と答弁。賃上げ費用を適切に転嫁するための価格交渉に関する指針を年内に策定するとしたほか、賃上げに取り組む中小企業への低利融資の検討を進めると答えました。
■(子育て・教育・若者)大学無償化30年代までに
山口代表は、大学など高等教育の無償化について、2030年代までに実現すべきだと訴えた上で、「まずは、経済的負担が大きい1年生の前期分の授業料を無償化してはどうか」と提案しました。
不登校対策では、不登校の児童・生徒の4割が相談支援につながっていない現状を指摘。対策の前倒しでの実施を求め、岸田首相は、1人1台端末を活用した心の健康観察の推進などを「速やかに実行していく」と答えました。また、山口代表は、独身・単身世帯の支援強化とともに、「若者の所得向上に最優先で取り組むべきだ」と訴えました。
石井幹事長は、公明党の推進で利用可能な年収上限が来年度から400万円に引き上げられる奨学金の減額返還制度について、高校生や保護者らへの周知が必要だと力説。自治体や企業が奨学金の返還を肩代わりする「代理返還」については、負担軽減だけでなく、企業の人材確保や、若者の地方定着につながると述べ、全国的な広がりを支援するよう提案。岸田首相は、「全国での利用拡大に努めていく」と答えました。
■(高齢者)認知症施策“待ったなし”
認知症について石井幹事長は、「“待ったなし”の課題」と強調。公明党の主導で今年6月に制定された「認知症基本法」の柱が、認知症になっても安心して暮らし、活躍できる「共生社会」の実現だとし、認知症の人や家族らの思いを的確に反映した「基本計画」を策定し、地域での総合的な取り組みを加速するよう主張しました。岸田首相は「都道府県などに対する計画の策定支援など総合的に施策を推進する」と答えました。
また石井幹事長は、地域ニーズと高齢者のマッチングや、定年退職後の「地域セカンドキャリア」を見据えた取り組みを行う企業を支援するなど、「高齢者が地域で生き生きと活躍できる環境を整備すべきだ」と訴えました。
■(外交・SDGs)核禁条約締約国会議、オブザーバー参加を
「核なき世界」の実現に向けて山口代表は、11月の核兵器禁止条約第2回締約国会議に日本もオブザーバー参加するよう主張。岸田首相は、核保有国を関与させる努力が必要だとして非保有国も交えた「国際賢人会議」を重視する姿勢を示し、「12月8、9日に第3回会合を長崎で開催する。私も出席するべく調整している」と表明しました。
石井幹事長はSDGs(国連の持続可能な開発目標)に関して、評価可能な約140の目標のうち、順調に進んでいるのが15%にとどまっているとの国連の報告に言及。改定を予定する政府のSDGs実施指針に関して「本格的な行動の加速と拡大につながる見直しを」と訴えました。
■(防災・減災・復興)緊急災害派遣隊の強化必要
石井幹事長は、被災状況を調査し、自治体の支援ニーズに応じて技術的助言を行う緊急災害対策派遣隊「TEC―FORCE」が「被災地に大変感謝されている」とし、今後、ドローンなどICT(情報通信技術)の活用や3次元計測を行えるよう、体制や機能の強化を求めました。
福島の復興については、ALPS処理水の海洋放出に関する風評払拭に向けた情報発信のほか、水産業者の事業継続へ、計800億円の基金を活用した機動的な対応や、加工機器などの導入支援の迅速な実施、新たな施設整備に向けた支援を要望しました。
■(マイナンバー)
マイナンバー制度を巡り、山口代表は「(ひも付けの誤りなどの)再発防止策を徹底し、国民が安心してマイナ保険証を活用し、メリットを享受できるよう実効的な仕組み作りを求めたい」と強調。岸田首相は「ひも付けの総点検と、その後の修正作業を着実に進め、マイナ保険証のメリットを実感してもらえるよう、取り組みを積極的に行う」と述べました。
<識者の声>
■日本経済の実態捉えた提言/クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 会田卓司氏
日本経済の実態を捉えた提言とも言える質問でした。実質国内総生産(GDP)がコロナ前を上回り「経済は正常化した」との認識が広がっていますが、間違いです。これは輸出や官公需が増加した影響が大きく、消費と設備投資を含む民間内需はコロナ前を2%下回っています。
その中で、石井幹事長が「一定の時間、家計への支援が重要」と述べました。“3つの還元策”で内需を支え、経済を平時に戻していくことは適切な施策だと言えます。
山口代表が生活困窮者らを支援するため、重点支援地方交付金の積み増しを求めたのも大切です。政府の財政収支は平常レベルに回復しており、積極的な支援は当然でしょう。
一般的な注目度は低いものの、中小事業者の資金繰り支援を求めた点も高く評価できます。世界経済の減速リスクに備えるためにも今後の国会質問で深掘りしてほしいと思います。
■子どもや若者に焦点、心強い/株式会社「笑下村塾」代表 たかまつなな氏
若者の投票率が低く、若年層向けの政策を推進しても“票にならない”と言われる中で、子ども・若者に焦点を当てた質問が多く、心強いと感じました。
家庭の経済状況などにかかわらず、誰もが同じスタートラインに立って教育を受けられる環境の整備に向け、大学など高等教育の無償化について、「2030年代までに実現すべき」や「まず1年生の前期分の授業料から」など、踏み込んだ提案をしたことは、非常に評価でき、早期の実現をめざしてほしいです。また、所得が低い人ほど結婚に踏み切れないといったデータもある中で、「若者の所得向上に最優先で取り組むべき」と訴え、独身・単身世帯などへの支援強化を求めたことは、理にかなっています。
今の若者は、自分たちの声が政治に届いていないと感じています。公明党には、より一層、子どもや若者の声を聴き、政策をリードしてもらいたいです。
■シニア活躍の提案、高く評価/恵泉女学園大学学長 大日向雅美氏
高齢者は“社会保障の給付対象”として現役世代の負担を増す存在と見なされがちですが、代表質問では“活躍”という新しい観点が打ち出され、その具体策を含めて提案したことを高く評価します。
私は20年近く、シニア世代男女の地域貢献活動を支援するNPO活動を行っていますが、この世代の潜在力の大きさを痛感しています。人はいくつになっても社会との接点を持って生きることを求める存在です。それがシニア世代自身の生きがいや健康寿命の延伸になるだけでなく、豊富な人生経験が子どもや若い世代に還元され、地域を活性化しています。
公明党は今年6月、高齢者の活躍を推進するプロジェクトチームを立ち上げました。高齢者と現役世代が互いに支え合う「共生社会」の創生、誰一人として取り残さない持続可能で平和な社会の構築に向けた取り組みに期待しています。