「対談 どう生かす核兵器禁止条約 ICAN国際運営委員 川崎哲×党核兵器廃絶推進委員長 浜田昌良(参院議員)」(公明新聞2021/03/30 3面より)
初めて核兵器を違法と定めた核兵器禁止条約(核禁条約)が1月22日に発効した。米国の核抑止に安全保障を依存する日本政府は核禁条約を批准しない方針だが、核禁条約を高く評価する公明党は、政府に対して批准への環境整備を進めるよう求め、まずは、来年1月にも開催される核禁条約の第1回締約国会合にオブザーバー参加するよう主張している。公明党核兵器廃絶推進委員会の浜田昌良委員長(参院議員)と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員に、日本として核禁条約にどう向き合うべきかについて語り合ってもらった。【詳報は月刊「公明」6月号に掲載予定】
■(川崎)核違法の規範強化へ批准100カ国めざす
■(浜田)発効によって保有国でさえ無視できず
浜田昌良党推進委員長 核禁条約の発効で核廃絶は第2段階に入ったと思います。
川崎哲ICAN国際運営委員 はい。まさに核軍縮に向けた動きが「核兵器をなくす」という新しい段階に入りました。新時代の開幕を告げる歴史的な条約で、最大の意義は「核兵器はいけない」という法規範をつくったことです。
核禁条約に関し「核保有国が入らないと核廃絶にならない」との声もありますが、核禁条約を推進した中心国も私たちNGO(非政府組織)もこの条約ですぐに廃絶ができるとは思っていません。前提として「廃絶しなければならない」という法規範が必要で、ようやくそこに立ったということです。
まずは法規範を強くすることが重要で、締約国を現在の54カ国から100カ国にすることが必須でしょう。国連加盟国193カ国の過半数が条約加盟国になれば本当に強い法規範となります。
そのためには条約慎重派の誤解を解く必要があります。核禁条約は核不拡散条約(NPT)や他の核軍縮と矛盾するものではなく、補強するものであることを理解してもらうことが大切です。核禁条約はNPT6条の核軍縮義務履行のための条約という側面もあるし、核不拡散の強化にもなることを知ってほしい。
浜田 核保有国も発効でこの条約を無視できなくなった。
川崎 やや焦りの見えるコメントをしている。
条約批判の口ぶりではありますが「核軍縮はやるから勝手に条約をつくらないでくれ」とも聞こえる。つまり「自分たちにもやる気がある」というふうにも聞こえます。
■(川崎)“脅威”にさらされているのは世界共通
■(浜田)軍縮の達成前でも廃絶への議論は可能
浜田 一方で衝撃も走りました。
一つ目は核禁条約が核抑止を完全に否定したこと。国際司法裁判所(ICJ)が1996年に出したいわゆる核違法勧告でも、国家存亡の危機のような自衛の極限状況では、核の威嚇、使用が合法か非合法かは判断できないとの結論でした。それに対し、いかなる場合でも核による威嚇、すなわち核抑止を禁止したことは衝撃でした。
この結果、核の脅威にさらされている国と、そうでない国とでは核禁条約への賛否が割れた。この分断を防ぐためには、核抑止によらない安全保障を議論する場を日本が用意し、橋渡し役を担うべきです。
すでに政府は2017年に、核保有国、非保有国双方の有識者による「実質的な核軍縮の進展のための賢人会議」を設置し議論を積み上げています。現在は政府関係者も含めた会議になっています。この賢人会議を利用すべきです。
2月22日の衆院予算委員会で、公明党の斉藤鉄夫副代表が、核抑止に替わる新しい安全保障論議を日本がリードしてはどうかと質問したところ、茂木敏充外相は「安定的な形で核に頼らずに、そういうことができるというのは望ましい」「そういった検討は進めなければいけない」と一歩踏み込んだ答弁をしました。政府も動き出す可能性がある。
二つ目の衝撃は、日本のように核軍縮が進んだ後に核廃絶があると考える方法論ではなく、ゴールからのアプローチです。まず核兵器の禁止を決め、そこから必要となる検証制度などの議定書を作るという方法論です。
この方法論に日本は決して乗れないわけではないと思います。
なぜなら日本は、16年に進歩的アプローチという方法論をすでに提案しているからです。それは、核軍縮が進み、保有規模が最小化した時点で核廃絶の議論を始めるだけでなく、その前段階から核廃絶の議論は可能だというアプローチです。
川崎 日本政府も核軍縮が最小化の段階になれば核禁条約的なものは絶対必要だと言ってきました。
「今すぐ入るか」という問いには、日本政府は「ノー」と言うしかないけれども、「ある時期に核禁条約に入る、それに向けて準備をする」ということは言えるはずです。
すでに公明党の山口那津男代表は、最終的に核禁条約に加わる、それに向けた環境をつくるという方向性を示されました。本来、これは日本政府が言うべきことだと思います。核廃絶には法的枠組みは必要になります。「いずれ核禁条約に入る」と言ってもらうと、条約推進国とそんなに対立はしないはずです。
ただ、「核の脅威にさらされている国と、そうでない国」という分け方ですが、私はやはり、世界中が核の脅威にさらされていると思います。核戦争が起きれば世界全体が被害を受けるわけですから。
「自分たちには脅威があるから核抑止に依存する」というロジックは恣意的に使われる恐れがあり、核兵器の拡散にもつながりやすい。核兵器は世界共通の脅威と考えるアプローチが必要です。
■(川崎)人道論と安全保障論議は矛盾しない
■(浜田)オブザーバーで参加し積極的な貢献を
浜田 核禁条約にどう向き合うかは日本の重要テーマです。
日本は当面、核禁条約の締約国会合にオブザーバーとして参加し、唯一の戦争被爆国として存在感を示し、中長期的には日本が批准できるような安全保障環境を創出していくべきだと公明党は考えています。
オブザーバー参加を求める山口代表の主張は一斉に報道され、賛成の声も多い。政府は慎重ですが、もう世論になっています。
オブザーバー参加の意義として第1に、締約国会合の開催費用を負担することで財政的貢献になります。核禁条約はオブザーバー参加でも開催費用の分担を求めています。現在の加盟国はコロナ禍で財政的に苦しい国も多く、日本は最大の分担国として貢献できます。例えば17年にオーストリアで4日間96カ国が参加した対人地雷禁止条約の会合の場合、全体の開催費用が約4000万円でしたので、最大分担国となっても日本の財政上、問題ないでしょう。
第2は、政府代表団として被爆者や、大学生らのユース非核特使を派遣できます。
第3は、日本が知見を持っている被爆医療や環境修復などの分野で貢献できます。
第4は、やはり核禁条約の実効性向上のための積極的貢献です。締約国会合では今後、核廃絶に向けた検証制度などが議論されますが、そこでの貢献も国連から期待されています。
最後に、こういう貢献を積み重ねた上で、締約国会合または特別会合の被爆地での開催を要請することも考えられます。
川崎 これだけオブザーバー参加について具体的に検討されている。大変に心強く思います。公明党の議論は、日本のオブザーバー参加論の最先端だと思います。
どんな議論でもその場にいないとプレーヤーになれません。核軍縮で存在感を発揮したいなら、締約国会合に参加すべきです。
浜田 核禁条約批准のためには、安全保障環境の改善が不可欠です。
具体的には、一つ目が北朝鮮の非核化と国交正常化。二つ目が朝鮮戦争の「終結」。三つ目が中国の核態勢の透明性向上です。これら全てを達成しないと批准できないわけではないですが、議論はここから始まります。その中で、核抑止に替わる新たな安全保障のあり方について議論が進めば、日本の批准に向けた環境整備につながります。
川崎 「北朝鮮問題があるのに心配だ」という思いは当然で、現実的な解決策を示しながら、核禁条約に入ることがあるべき道だと思います。その議論の過程で北東アジアの非核兵器地帯構想に取り組んでいくことは、私たちも重要だと考えています。
浜田 核禁条約を拡げるためには、こうした安全保障論も関わってきます。NGOの人道論的アプローチと、安全保障論的アプローチの両方が必要です。
川崎 人道論と安全保障論は矛盾することではありません。今は、対立が演出されていますが、重なる部分では一緒に進めていくことが非常に重要だと思います。核の非人道性の声明に賛同するなど、政府を動かしてきた公明党の役割が期待されます。
かわさき・あきら 1968年東京生まれ。東京大学卒業後、民間シンクタンクのNPO法人ピースデポの事務局長などを経て2003年から国際NGOピースボート共同代表。ICANでは14年7月以降、国際運営委員。著書に『核兵器はなくせる』『核兵器を禁止する―条約が世界を変える(新版)』(共に岩波書店)など