「新型コロナ 識者に聞く『新しい生活様式』」(公明新聞2020/06/28 1面より)
新型コロナウイルスとの長期戦を見据え、感染予防と社会経済活動を両立する「新しい生活様式」が求められています。政府専門家会議座長の脇田隆字・国立感染症研究所所長、同会議メンバーの釜萢敏・日本医師会常任理事から、これまでの知見を基にアドバイスをもらいました。
■脇田隆字氏(政府専門家会議座長、国立感染症研究所所長)
■ほとんどの人が「未感染」の実態
■3月と違う積極検査による増加
■「3密」に加え、声出す環境を回避
――感染拡大の現状は。
緊急事態宣言による外出自粛などの効果で、感染経路が不明な「市中感染」のリスクは、かなり抑え込めているといえるでしょう。
厚生労働省が今月上旬に行った調査では、過去に感染した人を示す抗体保有率は、東京都で0・10%、大阪府で0・17%、宮城県で0・03%でした。つまり、ほとんどの人が、まだ感染していない実態が裏付けられました。
東京都の場合、約1万4000人に感染歴があると推計されます。PCR検査で感染が明らかになった人は、その3分の1程度。残り3分の2の人は、無症状あるいは軽症で検査を受けなかった可能性があります。
一方、連日、数十人規模の新規感染者が出ているのは、積極的なPCR検査によって、感染者を掘り起こしている面があります。オーバーシュート(爆発的患者急増)の危機にあった3月後半とは、同規模の新規感染者数であっても違う状況です。
――社会経済活動を再開する上で注意すべきことは。
クラスター(感染者集団)が発生しやすいのは密集、密接、密閉の「3密」に加え、声を出したり、呼吸が荒くなる環境です。それを避ける「新しい生活様式」の実践が欠かせません。
例えば、感染リスクが高いとされたライブハウスでも、舞台に飛沫の飛散を防ぐシートを設置し、観客が声援の代わりに鈴を使うなどの対策を取って再開した施設があります。流行収束まで1、2年はかかるとみられ、感染リスクを理解し、活動再開をめざしていただきたい。
――第2波への対応は。
海外からの感染流入が抑えられている間は、爆発的な拡大は容易には起きないと見ています。ただし、歓楽街などで感染が広がっている東京都では、これ以上の拡大を防ぐ対策を重点的に行う必要があります。
脇田隆字 1958年生まれ。医学博士(名古屋大学)。国立感染症研究所ウイルス第二部長、副所長などを経て2018年4月から所長。C型肝炎ウイルスの感染性ウイルス粒子の培養に世界で初めて成功し、治療の飛躍的進歩に貢献。
■釜萢敏氏(政府専門家会議メンバー、日本医師会常任理事)
■間隔2メートルとマスク着用は効果的
■小まめに水分補給し熱中症防ぐ
■30分に1回を目安に部屋の換気
――外出や交流で気を付けたいことは。
政府は「新しい生活様式」の実践例として、人との間隔はできるだけ2メートル空けることを挙げています。これにより感染リスクを大幅に減らせるとの研究結果が、6月初めの英医学誌ランセットに取り上げられています。信頼の置ける知見です。
また、マスク着用の効用も、はっきり示されています。症状がある人は他人にウイルスをうつさないために、健康な人は感染予防のためにマスクを着用してもらいたいと思います。
――長時間のマスク着用で心配なのが熱中症です。
着用時は激しい運動を避け、喉が渇いていなくても、小まめに水分を補給してください。近くに人がいなければ、外しても問題ありません。30分に1回を目安に、部屋の換気をしてください。これを考慮すると、室温は26度くらいがいいでしょう。
――症状については。
初期によく見られるのは、①発熱②せき、喉の痛み、鼻水などの呼吸器症状③強いだるさ――などです。すぐに息苦しさが現れるわけではありません。若い女性を中心に、食べ物の味やにおいが分からないと訴える人が多いことも分かっています。
一方、重症化しやすいのは高齢者と、糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある人です。免疫力が変化しやすい妊婦や、子どもも十分な注意が求められます。
――治療薬やワクチンは。
治療薬には、重症者に投与する「レムデシビル」がありますが、感染が分かってすぐ飲めるような薬はまだ薬事承認されておらず、既存の薬の中から有効性が期待できるものを試している段階です。
ワクチンは、開発の緒に就いたばかりです。効果や安全性に加え、量産のしやすさが重要です。海外頼みだと供給面が危ういので、国内で一日も早く開発が進むことを期待しています。
釜萢敏 1953年生まれ。日本医科大学卒。同大学付属第一病院小児科入局などを経て、小泉小児科医院(群馬県高崎市)院長。この間、高崎市医師会会長などを歴任し、現在は群馬県医師会参与。2014年から日本医師会常任理事。