子どものSNS利用のあり方は
「当事者の声」に耳傾けて/兵庫県立大学・竹内和雄教授に聞く
(公明新聞 2026/07/11 4面) インターネットやSNSは国民生活の利便性向上に不可欠なツールであり、大人だけでなく子どもたちにも広く浸透しつつある。
一方で、SNSを介した犯罪被害や深刻なネット依存などへの懸念も年々強まっている。海外では年齢による利用規制が広がる中、日本ではSNSのリスクから子どもたちをどう守っていくべきか。
現状の課題や今後の議論の方向性について、兵庫県立大学の竹内和雄教授に聞いた。
■ (実態) 全面禁止は非現実的/「居場所」としての側面も
――子どもたちのネット・SNS利用の実態は。
竹内和雄教授 2歳児の過半数が既にネットを使っていることが、こども家庭庁の調査で分かっている。子どもが主体的に使っているのではなく、大人があやすために見せているということだ。
また、全国の児童生徒に1人1台の情報端末を配備する「GIGAスクール構想」が始まり、ネット利用の低年齢化が進んでいる。
大人についても、「出会いのきっかけ」を尋ねた生命保険会社の調査で「マッチングアプリ」が圧倒的な1位になるなど、ネットやSNSは完全にインフラ化している。
これだけ低年齢化とインフラ化が進む中で今さら子どもに「ネットを使うな」というのは現実的に無理がある。
「闇バイト」や「ネットいじめ」といった悪影響が存在することは確かで、「自由に使え」と放任するのは無責任だ。一方、ネットやSNSが良い出会いや「救い」につながることもある。だからこそ「どこまでは良くて、どこからは駄目」という線引きの最適解を大人が考えていかなければならない。
――SNSを通じて犯罪などに巻き込まれる子どもが増えている。
竹内 昔なら「心がしんどい子」は、盗んだバイクで走り出したり、コンビニの前で集まったりしていたが、今はスマホが心の逃げ場、出会いの場になっていて、ネットの中に自分の居場所を求めてしまいがちだ。全面的な規制はできないが、現実として危険があることを示し、トラブルに巻き込まれた時の対処法を教えるのは大人の役割だ。
■ (規制) 民間頼みでは不十分/時代に合わせた議論が必要
――海外では規制強化の動きが進んでいる。
竹内 例えばオーストラリアが「16歳未満のSNS利用禁止」と決めたからといって、それをそのまま日本に当てはめるのは乱暴な議論だ。
日本は世界で唯一「ガラケー時代」を経験した国であり、スマホが普及する前から手の中でネットを利用してきた。スマホがパソコンの延長線上で捉えられている海外とはSNSの出自と歴史が異なる。
日本では、以前は中学生まではLINEの利用が中心だったが、コロナ禍を経て一気にX(旧ツイッター) などのSNSの利用が広がった。
さらに今は小学生でもSNSを使い始めている。各SNS事業者の利用規約では「13歳未満は利用不可」となっているが、民間企業の規約に頼るだけでは不十分だ。12歳くらいが責任を持って使える「子ども用SNS」のような仕組みの整備も含めて、日本の国としてどう歯止めをかけるかといった制度設計が必要だ。
――議論の現状は。
竹内 「日本はネット規制が遅れている」と誤解されがちだが、実は2008年の段階で世界に先駆けて「青少年インターネット環境整備法」を制定している。
当時はガラケー時代で、基本的には「見る専(閲覧中心)」だった。ゲームも画面が小さく1時間程度で疲れてしまう。
しかし現在は子どもたち自身が情報発信するようになり、ユーチューブの視聴やオンラインゲームが際限なくできる環境に変わった。
発信への対策や時間制限といった新しい課題に対応するには法改正も視野に入れた、広い議論が必要だ。
――今後の課題は。
竹内 有害サイトを遮断する「フィルタリング」という言葉自体が古くなっている。子どものネット利用を大人がサポートする「ペアレンタルサポート」といった考え方に変えていくべきだ。
正確な年齢認証も大きな課題であり、マイナンバーカードの活用も含めて英知を結集する必要がある。
また、学校で配布する「GIGA端末」のフィルタリング設定は自治体に任されている現状があり、国として均一の仕組みが求められる。
SNS事業者による規制に任せるだけではなく、国が明確に基準を示した上で、かつて存在した「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」のように運営を監視・評価する第三者機関の創設も含めて検討するべきだ。
■ (依存対策)「やり過ぎ」の自覚ある/体験の提供、一つの答えに
――竹内教授はネット環境から離れて自然体験を行う共同生活プログラム「オフラインキャンプ」を主催している。
竹内 子どもたちは大人が思っている以上に、自身のネット利用に対して否定的だ。「やり過ぎている」「このままじゃ駄目だ」と分かっているけれど、やめられない。だからこそ、大人は「当事者の声」にしっかり耳を傾けなければならない。
オフラインキャンプでは1日1時間だけネットを使っていい時間を設けている。1日目は、ほぼ全員がスマホを触っているが、2日目、3日目とたつにつれてスマホを触る子は減り、缶蹴りや鬼ごっこなど、友達と遊ぶことを優先するようになる。ネットを頭ごなしに禁止するのではなく、魅力的な体験や友達との居場所をつくることが、ネット依存対策の一つの答えになるだろう。
■ 親子で納得できるルール作りが大事
――家庭で心掛けるべき実践的な対策は。
竹内 親子で話し合って納得できるルールを作ることだ。ゲームを「夜9時」に終わらせたいなら、親はあえて「8時」と提案する。
子どもは「10時までやりたい」と反発するだろう。そこで話し合って「間を取って夜9時にしよう」と合意をつくる。
子どもは「自分で勝ち取った時間だ」と納得するため、ルールを守るようになる。その上で、子どもはネットを使い過ぎたり、有害サイトにアクセスしてしまったりと必ず失敗をする。
その時に、ただ叱りつけるのではなく、相談に乗って一緒に解決してあげられる親であることが最も大事だ。
■ (オフラインキャンプ)
竹内教授と兵庫県立大学の学生らが中心となり開催。参加者は自然の中で仲間と触れ合いながらインターネットとの上手な付き合い方を考える。2026年は8月に兵庫県(申し込み終了)、9月に大阪府、10月に奈良県で開催する。
■ 10~17歳のネット利用99%/進む長時間化、多様なトラブルに注意
こども家庭庁の2025年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、青少年(10~17歳) のインターネット利用率は99%に達している。
利用機器はスマートフォン(78.5%) が最多で、学校から配布・指定されたパソコンやタブレット端末(72.7%)、ゲーム機(66.2%) と続く。
ネットを1日に5時間以上利用していると回答した青少年は約48%、平均利用時間は約5時間27分に上る。
SNS利用を通じて青少年が遭遇するトラブルは多様化している。学校におけるいじめの認知件数のうち「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる」は2万7365件と増加傾向にある。知人や友人に送った自身の画像が意図せず拡散されるといったトラブルも発生している。
SNSに起因する事犯による被害児童数1566人(25年) のうち、殺人、強盗、不同意性交、誘拐などの重要犯罪の被害者は598人と増加傾向にある。
一方、特殊詐欺の受け子などの「闇バイト」で検挙された10代のうち、約3割がSNSから応募したと供述しており、青少年が加害者として巻き込まれるリスクも高まっている。
たけうち・かずお 兵庫県立大学環境人間学部教授。長年、公立中学校で教鞭を執った後、大阪府寝屋川市教育委員会指導主事などを経て現職。ネット問題やいじめ、不登校など、課題を持つ子どもへの対応方法について研究。こども家庭庁「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」構成員。

