名もなき庶民が振り絞った小さな声。それを聴く力こそ
(17日 公明新聞「北斗七星」)「喧騒の中で、話を聴いてもらうにはどうしたら良いと思う?」。
演出家の問いに劇団員は思い思いの方法を答える。
やがて演出家はこう明かす。「小さな声で話すこと。そうすれば周りの人は音量を下げ、耳を傾けて、あなたの声を聴いてくれますよ」
◆ これは『小さな声の向こうに』(塩谷舞著、文藝春秋) にあるエピソードだ。周りが騒がしいから声を張り上げるのではなく、小さな声で話す。意外に感じるが、声楽家の池田直樹氏は『声の力―歌・語り・子ども』(岩波書店) で次のような体験をつづっている。
◆ 氏は都内の幼稚園で演奏会を催し始める。でも最初の頃は子どもを静かにさせるのが大変だった。知っている歌があれば騒ぐ。何か質問すると答えられると言って騒ぐ。ところがある時、声をひそめてしゃべり始めたら、シーンとなったのだ。
◆ 小さな声は演奏技術としても重要だと氏は続ける。楽譜を見ると、大きな声で歌う〈フォルテ〉に歌の重要な部分があるようだが、実は大事な内容は〈ピアノ〉、小さな声で歌う箇所にあるという
◆ 世の中にはその思いを大きな声にできない人がいる。名もなき庶民が振り絞った小さな声。それを聴く力こそ“大衆とともに”の生命線にほかならない。(佳)