■出産育児一時金、50万円に/「伴走型相談」も継続実施
一般会計の3分の1を占める社会保障費は36兆8889億円に達し、過去最大。高齢化の進展で医療費の増加傾向が続く。前年度と比べた高齢化による社会保障費の伸びは4100億円程度で、当初見込みより1500億円程度が縮減された。「薬価」の引き下げによる約3100億円の医療費削減が寄与した。
子育て支援も拡充する。子どもが生まれたときに支給する「出産育児一時金」を23年4月から、現行の42万円から50万円に増額する財源として国費から76億円を拠出する。引き上げ幅は過去最大。厚生労働省によると、21年度の平均出産費用は約47万円に上る。一時金の増額により、子育て世帯の負担を軽減する。
また、妊娠時から出産・子育てまで一貫した伴走型相談支援と、妊娠届・出生届を行った妊婦・子育て世帯に対する経済的支援(計10万円相当) を一体的に行う事業も継続的に実施する。
■コロナ
■保健所の機能強化を推進
新型コロナウイルス対策関連では、インフルエンザとの同時流行に備えて治療薬確保の費用などが盛り込まれた。保健師の研修など保健所の機能強化に向けた経費も措置。介護事業所で感染者が出た場合でもサービスを継続できるよう、一時的なスタッフ確保の経費なども支援する。
先に成立した22年度第2次補正予算に3兆3584億円を前倒しで計上した影響で、23年度予算案に盛り込まれたコロナ対策費は97億円となった。これとは別に、予備費として物価高騰対策と合わせて4兆円を計上した。
また、今夏にコロナが流行した際、解熱剤が供給不足となった教訓を踏まえ、医薬品の安定供給に向けた仕組みを整備。地域の薬局同士で医薬品を融通する協力体制を構築するなどした場合、診療報酬上の加算措置を行うこととした。
■自治体財政
■地方交付税、18・4兆円超/マイナカード、利活用に「特別分」
地方財政は、自治体が自由に使途を決められる一般財源の総額が前年度比2000億円増の62兆2000億円と決まった。このうち、国が自治体に配る地方交付税は、前年度より3000億円多い18兆4000億円と5年連続で増加。マイナンバーカードを活用した住民サービス向上策などの財政需要に対応するため、地域のデジタル化を推進する経費を増額する。臨時財政対策債(赤字地方債) は抑制し、地方財政の健全化に配慮した。
政府は21、22年度、各2000億円を地方財政計画の歳出に計上した「地域デジタル社会推進費」を25年度まで3年間延長。加えて、23、24年度はマイナカード利活用の「特別分」として各500億円を上積みする。全ての市町村で増額となるよう算定し、カード交付率が上位3分の1の市町村はより手厚くする。
■デジタル
デジタル技術の活用により地域活性化をめざす「デジタル田園都市国家構想」の推進に向け、自治体の取り組みを支援する「デジタル田園都市国家構想交付金」に1000億円を盛り込んだ。22年度第2次補正予算での同交付金創設時に計上した800億円と合わせ、1800億円規模で地方のデジタル化や地域活性化を推進する。
具体的には、自治体のデジタル実装の加速化やデジタルを活用した観光・農林水産業振興、5G基地局などの基盤整備を進める。
■脱炭素
■民間のGX投資促す
脱炭素の分野では、CO2の排出量に応じて企業などに費用負担を求める「カーボンプライシング」を財源の裏付けとする新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション) 経済移行債」を23年度に約1兆6000億円発行し、民間のGX投資を支援する。
このうち4900億円程度を、50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ) 目標達成に向けた、革新的な技術開発やクリーンエネルギー自動車の導入、次世代革新炉の研究開発などへの支援に投じる。
■中小企業
中小企業支援では、事業承継を円滑に行うため157億円を計上。後継者による新規ビジネスを後押しする事業には2億円を盛り込んだ。価格転嫁しやすい環境を整備するため、実態を調査する「下請けGメン」の増員などに24億円を計上した。
■交通
整備新幹線の建設事業費は、前年度比460億円減の1940億円。24年春に開業の北陸新幹線金沢―敦賀間の工事費減少などが要因。国費は前年度と同額の803億7200万円を確保した。赤字が続くローカル線の再編など地域公共交通の見直し支援に252億円を投じる。路線バスの安定運行へ、複数年にわたりバス会社に補助金を支給できる制度も設ける。
■防災
公共事業関係費は、前年度比で26億円増の6兆600億円。激甚化する自然災害に対応するため、国や自治体が民間や住民と連携してハード・ソフト両面から水害対策を講じる「流域治水」に重点を置いた。うち、国土強靱化関連は2・0%増の3兆9497億円。流域治水の取り組みや、新技術を活用した老朽化対策などを加速させる。堤防やダムの整備のほか、自治体の河川整備計画の見直しといった総合的な対策も後押しする。
■復興
東京電力福島第1原発事故による帰還困難区域のうち「特定復興再生拠点区域」(復興拠点) 外の地域の除染に着手するため60億円を計上。来年4月に福島県浪江町に設立する「福島国際研究教育機構」の関連費用は146億円を盛り込んだ。
■消費者保護
霊感商法などの悪質商法対策では21億7000万円を計上。各地の消費生活センターの相談体制を強化する交付金17億5000万円に加え、被害者救済新法施行の必要経費として4億2000万円を盛り込んだ。悪質商法対策が目的の常設専門部署を23年度に開設する。デジタル広告の不当表示に適切な対応をするための、監視と情報収集業務には5000万円を計上した。
■安全保障・外交
23年度の防衛費は、22年度当初比26・3%増の6兆8219億円(米軍再編経費などを含む) となった。「反撃能力」として、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など長射程ミサイルの配備を進める。継戦能力向上に向け、弾薬取得費も大幅に増やした。
弾道ミサイル迎撃能力の強化としては、新造する「イージス・システム搭載艦」整備に2208億円を確保した。
弾薬取得には8283億円を確保した。「16カ月予算」として一体的に位置付けた21年度補正予算と22年度当初予算の合計額と比べて3・3倍となる。
自衛隊施設の耐震化や重要な司令部の地下化にも予算を重点配備。「16カ月予算」比3・3倍の5049億円を計上した。
来年5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7広島サミット) や、日本・ASEAN(東南アジア諸国連合) 友好協力50周年などを見据え、機動的で力強い新時代リアリズム外交を展開するために、外務省分として7560億円の予算を確保している。
■教育
■支援員増やし教員の負担軽減
教員の負担軽減に重点を置き、学校で事務作業を担う教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ) を2300人増員することが決まった。支援員は計1万2950人となり、14学級以上ある公立小中学校で1校に1人配置できる計算。
これまで小学校1~3年生で35人学級を導入してきたが、新たに4年生でも開始する。小学校高学年の英語や理科では教科担任制を推進する。
中学校では部活指導も教員の大きな負担となっている。全国200カ所の市区町村に、部活の受け皿をつくる費用などを支給する。
学校で行う従来型の部活では、教員の代わりに生徒に技術を教える「部活動指導員」を全国で1万2600人配置する。