■(何が起きるか) 高齢者の身寄り問題が深刻化
――単身世帯増加の要因は。
藤森克彦・日本福祉大学教授 高齢者で1人暮らしが増えるのは、長寿化による高齢者の増加と、老親とその子が同居しなくなったことが挙げられる。一方、男性を中心に中高年層で1人暮らしが増加するのは、未婚化の影響が大きい。
未婚化の背景には、仕事と子育ての両立が難しい社会環境や、非正規労働者の増加、さらに結婚に対する社会規範の変化などが挙げられる。
■“家族依存型”福祉に期待しにくく
――何が起きるのか。
藤森 日本は介護や保育などの福祉ニーズに対して、主に家族で対応する「家族依存型福祉国家」と言われてきた。これを支えてきたのは、夫が正社員として働き、妻が介護や育児などを担う「男性稼ぎ主モデル」である。しかし、男性稼ぎ主モデルが多い「夫婦と子」からなる世帯は全世帯数の25%まで減少し、単身世帯が4割近くを占めている。家族の形が変わる中で、従来通りの役割を家族に期待することは難しい。
家族の役割が縮小する中で、北欧諸国のように政府の役割を強化するか、米国のように自助を重視して市場から各自が所得に応じてサービスを購入していくか、それ以外の「第三の道」があるのか。日本は岐路に立っている。
――他に懸念は。
藤森 今後、高齢者の“身寄り問題”が深刻化する懸念がある。70代の1人暮らし男性の配偶関係をみると、1985年には死別者が7割、未婚者が5%であったが、2020年になると死別者30%、未婚者34%となった。同じ1人暮らし高齢者でも、未婚者は、死別者と異なって、配偶者だけでなく子どもがいない可能性が高い。老後を家族に頼ることが一層難しくなる。
具体的には、病院への同行や見守りなどの生活支援、入院や施設入所の際の身元保証、亡くなった後の葬儀やアパートの原状回復といった死後事務を、誰が担うのかといった課題がある。
■(必要な対策) “関係性の貧困”解消策を
――必要な対策は。
藤森 地域で身寄りのない単身者を支える体制づくりが急務だ。すでに、幾つかの地域では、行政や支援団体などが集まって、身寄りのない人をどのように支えるかについてガイドラインを策定している。
身寄りのない人を見守り、つながり続けていく伴走型支援も重要だ。現代社会では、経済的な貧困だけでなく、“関係性の貧困”も大きな課題になっている。
■借家暮らし多く、住まいへの公的支援も
――現役世代に対しては。
藤森 2000年代半ば以降、若者層や中年層で非正規労働者が増えた。そして、将来の住宅費や教育費を心配して、結婚を躊躇する動きもみられる。
住宅や教育は、人々が自立した生活を送る基盤である。こうした部分に公的支援の拡充が必要だ。
特に住宅はこれまで社会保障の範囲に入っていなかった。コロナ禍の20年度には住居確保給付金の申請が前年度の36倍に増えたことは、借家暮らしで家賃を払えなくなった人が、いかに多かったかを物語っている。1人暮らしは借家住まいの比率が高く、住まいへの公的支援も求められている。
――行政は、これまでの発想を大きく変える必要があると。
藤森 家族に過大な役割を求めず、家族機能を社会化していくことが重要だ。無論、家族は今後も大切であるが、家族のいない人が増えている現実も直視しなくてはいけない。
今、家族と一緒に暮らす人も、いつ1人暮らしになるか分からない。バリアフリーの社会が健常者にとっても暮らしやすいように、単身世帯が尊厳を持って暮らせる社会は、全ての人が安心して暮らせる社会になるはずだ。
■社会保障は経済成長の基盤
――日本の福祉水準をどう見るか。
藤森 日本では家族が大きな役割を担っているために、政府の役割は小さい。一般に、高齢化率が高ければ、(社会保障給付費に施設整備費などを加えた) 社会支出の対GDP(国内総生産) 比も高い傾向がある。
しかし、日本の高齢化率は、OECD(経済協力開発機構) 諸国中、断トツで高いのに、社会支出比率は中位である。高齢化率を勘案すれば、日本は「低福祉」の水準だ。
――子育て支援と高齢者支援のどちらを優先すべきか。
藤森 高齢者への給付を減らして若者に回せという議論になりがちだが、それは最終的に現役世代の負担を高める。例えば、高齢者への介護保険給付を縮小すると、結局は、家族介護となる。高齢者対現役世代という構図は誤りだ。重要なのは、年齢にかかわらず、負担能力に応じて負担をし、必要度に応じて給付を受けられる制度にすることだ。
■格差縮小、消費の担い手増やす
――政治への要望は。
藤森 社会保障は経済成長の足かせではなく、むしろ基盤になるという認識を持ってほしい。社会保障の強化は、格差を縮小して、消費の担い手となる中間層を厚くする。また、社会保障を強化すれば、医療、介護、子育てなどの分野で多くの雇用を創出する。雇用が生まれれば、そこに消費が生まれ、経済成長につながる。
それから、昨年度より「重層的支援体制整備事業」が始まり、地域における関係性の構築が重視されている。政府には、長期につながり続ける支援への財政的な後押しを期待したい。
ふじもり・かつひこ 1965年、長野県生まれ。国際基督教大学卒、同大学院修士課程修了。日本福祉大学より博士号(社会福祉学) 取得。2017年より現職。著書に『単身急増社会の希望』など。
*
土曜特集 「おひとりさま」時代の到来
2040年、単身世帯4割に増加
家族の姿はこの40年間で大きく変化している。国の統計によると、1980年は、「夫婦と子」の家族が全世帯の42%を占めていたが、2020年になると25%まで減少。逆に「単独」世帯の割合が38%と、1980年から倍増した。40年には39%を超えると推計されている【グラフ上参照】。50歳時の未婚割合は、1990年以降、男性が急上昇。2040年には29%となり、3人に1人が結婚経験がない状況となる【グラフ下参照】。