激動する国際情勢の中で、核廃絶どう進めるか

■(ウクライナ危機受けて)抑止論巡る対立が深刻化
――ウクライナ危機を受け、核廃絶を巡る状況はどう変化したか。
秋山信将教授 核軍縮を求める国々と、核を保有することで他国の核攻撃を阻止する「核抑止論」を主張する国々の意見対立は以前からあったが、ロシアの侵略はこの対立を一層深刻化させている。
核軍縮派は「米国は核を持っていてもウクライナへの侵略を阻止できなかった。核抑止は役に立たなかった」と考える。一方、核抑止派は「ロシアの核兵器は米国の介入を抑止した。同時に、米国に核兵器があるから、ウクライナを支援する米国に対して、ロシアは強い対抗措置ができなかった」と捉える。こうした形で核兵器の必要性を認識した国々に対する、核軍縮に向けた説得がより困難になってきている。
――プーチン大統領の「核による威嚇」発言は。
秋山 核兵器が本当に使用される可能性があるという示唆を与えたことは間違いない。核兵器についての国際社会の認識を変え、「使われるかもしれない有効な兵器だ」と印象付けてしまい、核使用の敷居を下げてしまった。
■(険しさ増す軍縮論議)NPT体制の維持が重要/核禁条約、̏不使用˝の規範強化に期待
――や、など、核軍縮の枠組みへの影響は。
秋山 「核兵器は使ってはならない」との規範を発信するという点で核兵器禁止条約の意義は高まっている。今月21日からオーストリアで開かれる同条約初の締約国会議は“核不使用”の規範を強化し、特に核兵器の非人道性に焦点を当てる点で大切になる。
ただし、同条約には核保有国は入っていない。
従って、今年8月に開催されるNPTの再検討会議が重要になる。国際社会の分断が深刻化する中、核軍縮への前向きな施策を打ち出すのは困難かもしれないが、核保有国の米国、英国、フランス、ロシア、中国の5カ国が核兵器について話し合う貴重な場となる。
近年、合意文書を採択できず、今回の戦争を受けて“死んだ”ともやゆされたNPTを維持していけるよう、国際社会で結束してメッセージを発信してもらいたい。
――核軍縮の今後の展望とポイントは。
秋山 核軍縮への道は険しさを増している。まずは将来の国際社会のめざすべき未来像を示し、核なき世界という目標を諦めないことに対して、国際社会全体でコンセンサス(合意)の確立をめざすべきだ。
また、今年で77年になる核不使用の記録の継続は、国際社会全体の利益にかなうという原則を確認することもポイントである。
■(被爆国・日本の役割)非人道性への理解広めよ
――日本の役割は。
秋山 唯一の戦争被爆国として、核兵器の非人道性に対する理解を国際社会に広める責務がある。例えば、核兵器使用後の説明責任を問うのも一案だろう。国際人道法との整合性、被害に対する責任の所在や補償をどう考えるのか。核保有国に説明を求めることで、核兵器使用のリスクや意味をより明確化する議論があってもいい。
その上で、日本には「三つの橋渡し役」を担ってもらいたい。
一つ目は「核軍縮と安全保障の橋渡し」。目下の安全保障上のリスクに対処し抑止を強化することは、将来の核廃絶という目標と矛盾しない。核なき世界は日本の安全に資するし、核軍縮の進展による安心は核なき世界の基礎となる。
二つ目は「現在と未来の橋渡し」。これは、次の世代に平和な社会を引き継ぐという意味に加え、直面する脅威に対処する備えをしつつも、懸念国との間で対立・競争を管理する枠組みを設け、対話の中で脅威を削減しながら、中期的に信頼を醸成し、核廃絶に向けた環境を整える努力があるべきだ。
三つ目は「現実と理想の橋渡し」。安全保障という現実と、核廃絶という理想は核軍縮の車の両輪だ。核の傘にありながら、その脅威を何とかしたいと思わない国はない。今できることを実施し、国際社会が抱えるジレンマを解消していくための構想が求められる。この三つの視点から政策を考えてほしい。
――公明党の提言を受け、岸田文雄首相が来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催を決めたが。
秋山 核なき世界という目標を再確認する場として重要だ。核と人類の関係や持続可能な平和のあり方など、国際社会のめざすべき姿を再確認できる場になればいい。
――公明党の役割は。
秋山 平和を希求するという党のアイデンティティー(存在意義)と、厳しさを増す安全保障環境の間で難しい判断を迫られている。情緒的な理念を掲げるのみならず、国際社会の平和と安定をめざす理念に基づきつつ、今直面する問題の解決とそれが将来につながるような現実的な政策を打ち出せるよう尽力してもらいたい。
■「核共有」はリスク高める/国内保有、攻撃対象になる恐れ
――米国の核兵器を日本に配備して共同運用する「核共有」を求める声が一部にあるが。
秋山 米国と核共有しても、使うかどうかは米国の意思の問題になるので、「核の傘」への信頼性が問題であれば、その解決策にはならない。
また、日本への核兵器の持ち込みについても、有事になれば、最初に攻撃の対象になってしまうというリスクがある。
日本の核保有を巡る議論は、国家のあり方に関する精神論的な側面もあるという印象を持った。情緒的な議論はすべきではない。
一国で自らの安全を確保することが事実上不可能である以上、日米同盟の強化や他国とのパートナーシップなど地に足を付けた実効的な政策の議論が必要だ。
日本が追求すべき戦略的な目標を設定した上で、その目標を達成するために必要なことは何か、順を追って論理的に考える必要がある。
そうした議論を抜きにして非核三原則の見直しや核共有といった、政策の断片だけを論じるのは良いアプローチではない。
あきやま・のぶまさ 1967年、静岡県出身。一橋大学法学部卒、博士(法学)。米コーネル大学、英オックスフォード大学留学。広島市立大学平和研究所講師、日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員、外務省在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て現職。専門は国際政治、軍縮・核不拡散。編著『「核の忘却」の終わり』(2019年刊)ほか。