インボイスについて❗
一般社団法人クラウドサービス推進機構 松島桂樹理事長に聞く
松島桂樹理事長 消費税率が10%に引き上げられる中、生活に欠かせない飲食料品全般(酒類、外食を除く)の税率が8%に据え置かれたことは、購買意欲の減少を緩和でき、消費を下支えできた効果は大きかったのではないか。
とりわけ、これまで税率が一律だった日本の消費税制が、軽減税率の導入の際に、初めて複数の税率を柔軟に適用できる仕組みとしたことで、「飲食料品の負担増を避けたい」との視点から政策の選択肢を増やすための制度対応と、システム整備もなされた点を高く評価したい。
――導入前は「小売業などが対応できず、混乱する」との批判もあったが。
松島 軽減税率に対応し、商品の販売情報などを集計できるPOSレジの導入を官民挙げて取り組み、普及が進んだことで、混乱は想定よりも少なかった。国民生活にも定着してきている。ただし、POSレジで得られる売上などのデータを、経営に十分に生かし切れていない中小企業も多い。経営改善へのデータ活用を強力に支援したい。
■(インボイス制度導入の意義)公正な納税へ環境整備/中小企業がIT化進める契機に
――インボイス制度の意義をどう見るか。
松島 インボイスにより、複数税率下でも、納めるべき消費税額を、事業者が簡単に計算できるようになる。納めるべき消費税の一部が事業者の手元に残る「益税」の改善、公正な納税環境の整備が進むことも期待できる。
しかし、私が最も重視したいのは、企業間のやり取りを紙に代わり、電子データで行える電子インボイスだ。中小企業では、紙やFAXの請求書や納品書をやり取りするなど非効率な作業が、いまだに多い。電子インボイスを通して、受発注業務と決済業務をつなぐ基礎的な情報がデジタル化されれば、中小企業の生産性が高まり、財務基盤と経営力も向上する。請求書などの保管の負担も軽減され、IT(情報技術)化を促進する機会となる。
電子インボイスの標準仕様となる国際規格「ペポル」の日本版が今秋にも策定される見込みだ。一定規模以上の企業は、自社開発や業務用の会計システムで対応できると思われるが、中小企業については、国を挙げての支援が不可欠だ。
――下請け取引に関しては。
松島 事業者間の取引で、弱い立場の中小企業が、消費税分を価格転嫁できずに負担するケースもある。インボイスで税額が明確化されれば、価格転嫁しやすくなる。特に、電子インボイスはすぐに可視化されるため、曖昧な受発注や支払いは許されなくなる。下請け取引の理不尽な商慣習が、見直される契機になり、適正価格が実施できれば、賃上げの原資も確保しやすくなるはずだ。
■事業者の準備促進へ簡単・安価なアプリ提供、専門家の相談支援拡充を
――電子インボイス導入への課題は何か。
松島 会計システムを持たない小規模事業者などでは困難が予想される。電子インボイスの恩恵も十分に知られておらず、必要以上に難しく受け止められている。まず政府は、税務ではなく、中小企業の視点から生産性向上に役立つという利点を丁寧に説明する必要がある。
同時に、簡単に電子インボイスを発行できる安価なサービスの提供も重要だ。スマートフォンのアプリ操作で、受発注とともに電子インボイスが発行でき、郵便ポストのように、投函すれば迅速に相手先に届くような簡便な「電子インボイス箱」とでも呼ぶべき、ユニバーサルサービスを整備すべきだ。国や公的機関に加え、金融機関などが提供しても構わない。
こうしたデジタル取引は資金決済が早く、取引先との迅速な代金支払い・受け取りにより、中小企業の資金繰り改善につながる可能性も高い。大企業は電子インボイスによる納品書・請求書への支払いを優先して行うくらいの協力をお願いしたい。こうした利点を強調して普及を進めるべきだ。
――政府の施策について。
松島 政府が21年度補正予算で、インボイス対応のため、IT導入補助金などで設備投資を促すだけでなく、相談窓口の体制を強化する経費を措置したのは適切だ。中小企業の長年の課題解決を進める機会にもしていけるよう、専門家による相談支援の体制を拡充してもらいたい。1社たりとも取り残さない、くらいの覚悟を持って普及に当たってほしい。

なお、課税売上高1000万円以下の免税事業者はインボイスを発行できず、仕入れにかかる税額は、買い手の課税事業者が負担する必要がある。経過措置として、インボイス開始から29年9月末までは、免税事業者からの仕入れについて、一定の割合で仕入れ税額控除できる特例が設けられる。
また、課税売上高5000万円以下の事業者が、仕入税額を簡単に計算できる簡易課税制度は引き続き適用でき、消費税の申告にインボイスの保存は要らない。
公明党は軽減税率の導入を政党で唯一提案し、その実現を推進。インボイス実施までの事務負担を軽くするため、既存の請求書から変更点を少なくした「簡素な経理方式」など、段階的に移行できるよう制度設計に尽力してきた。
21年度補正予算でも施策をリードした。販路開拓をめざす小規模事業者向けの持続化補助金にインボイス枠(最大100万円)を設定。「IT導入補助金」でもインボイス対応を見据え、会計ソフトだけでなく、パソコンも含むハード機器の購入も補助対象にした。
まつしま・けいじゅ 1948年生まれ。71年、東京都立大学工学部電気工学科卒、日本アイ・ビー・エム(株)入社。99年、経営学博士(専修大学)。武蔵大学経済学部教授などを歴任し、2013年に一般社団法人クラウドサービス推進機構を設立。