ショッキングな結果❗
少子化もたらす要因女性の幸福度から考える

■子ども持ってから悪化する夫婦関係
――少子化の要因について、女性の幸福度から分かることは。
佐藤一磨准教授 1993年から2014年までの「消費生活に関するパネル調査」(実施:慶応義塾大学パネルデータ設計・解析センター)の結果を基に、既婚女性の幸福度を分析した。
幸福度とは「あなたは幸せだと思っていますか。それとも、不幸だと思っていますか」との問いに対し、「とても幸せ=5」「まあまあ幸せ=4」「どちらでもない=3」「少し不幸=2」「とても不幸=1」の5段階で回答した結果を指している。
すると、幸福度の高い順に、子どものいない専業主婦、子どものいない働く妻、子どものいる専業主婦、子どものいる働く妻――となった【グラフ参照】。「子ども」と「就労」が幸福度を押し下げる要因であることが明らかとなった。
――子どもがマイナス要因とはショッキングだ。
佐藤 子どもを持つことが必ずしも幸福度の向上につながっていない。これは日本に限らず、世界の多くの国で見られる。
誤解しないでほしいのは、子ども自体がマイナスの影響を持っているわけではない。子どもは幸福度を高める効果がある。
子どもを持つことに伴う生活環境の変化によって、幸福がそれ以上に損なわれているというのが、われわれ研究者の共通認識だ。
――生活環境の変化とは。
佐藤 大きく言うと、①お金②夫婦関係③家事・育児負担――の三つだ。
つまり、子育てにかかる日々の経済的な負担が、家計を預かることの多い女性にのしかかっていく。出産に伴い、「妻」に加えて「母」の役割を担うようになった女性が、慣れない子育てでストレスを抱え、夫婦関係に悪影響が及ぶ。新たに生じた家事・育児負担が女性の方に偏る。
これらが女性の幸福度を低下させる。ヨーロッパでは、延べ120万人を超す調査の結果から、三つのうち「お金」が主な低下要因であることが明らかになっている。
一方、日本では、これまでの国内の研究を整理すると、「夫婦関係」の影響が大きい。出産を機に夫婦関係が急速に悪化することを「産後クライシス(危機)」と呼ぶが、そうした家庭は第2子の出産に至らず、少子化に拍車が掛かる。
■共働きでも妻の家事負担重く
――「就労」が幸福度低下を招いているのはなぜか。
佐藤 専業主婦の方が働く妻より幸福度が高い。夫の収入が同じであっても、それは変わらない。
ここ40年、女性を取り巻く就労環境は大きく変わり、女性に求められる役割が格段に増した。男女雇用機会均等法や女性活躍推進法などの法整備も進んだ。今や共働き世帯数は、専業主婦世帯数の2倍以上だ。
こうした変化にわれわれの意識が追い付いていない。「夫は仕事、妻は家事・育児」という性別役割分業意識が根強く残っており、女性が家事・育児負担を背負わされている。女性の社会進出で相対的に幸福度の低い女性が増えている現状は放置できない問題だ。
――男性の側に問題があると。
佐藤 そうとも言い切れない。男性の長時間労働も深刻だからだ。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の推進が急がれる。
その上で知ってほしい研究結果がある。一般的に、夫婦間の収入の多寡に応じ、家事・育児の分担割合が変わってくると想定されるだろう。妻の収入が増えれば、夫の家事・育児が増えると。しかし、研究結果から、夫の家事・育児はある水準に達すると、頭打ちになることが分かっている。妻と夫が同等の稼ぎでも、妻の方が多くの家事・育児を行っているのだ。
――就労による幸福度低下は海外でも見られるか。
佐藤 欧米では、働く妻と比べ、専業主婦の幸福度が必ずしも高いわけではない。むしろ働く女性の幸福度の方が高い場合もある。例えば、世界経済フォーラムが発表する、男女平等度を示す「ジェンダーギャップ指数」で、上位に並ぶ国では、働く女性の幸福度が高いとする研究結果もある。ちなみに今年の日本の順位は、156カ国中120位だ。
■性別役割意識変えて
――少子化解消の処方箋は。
佐藤 共働きを前提とした社会環境の整備を急ぐことだ。加えて根本的には、われわれ自身の時代遅れな性別役割分業意識を変えていくしかない。そうなると、一朝一夕での解決は難しい。これから結婚・出産を迎える若い世代に期待し、啓発していくことが重要になってくる。
――例えば、公明党が推進する「男性版産休」は期待できるか。導入に向けた関連法案が今国会で審議中だ。
佐藤 妻の家事・育児負担の軽減につながると思う。また、経済的な負担を考えると、出産育児一時金や、その先の幼児教育・保育の無償化、大学など高等教育の無償化なども心強い。
女性の幸福度の観点から言えば、少子化に歯止めをかけるカギは、やはり出産後の夫婦関係の悪化をどう食い止めるかだ。例えば、夫婦関係を直接的に支援する「出産後学級」も一案だ。出産前のパパママ学級や母子を守る産後ケアに取り組む自治体はあっても、出産後の夫婦に焦点を当てた支援は見過ごされがちだ。ぜひ取り組んでほしい。
――既婚、未婚、離婚の各女性の幸福度は。
佐藤 一般的に、既婚女性は未婚女性より幸福度が高いが、夫婦関係の悪い女性は未婚女性より幸福度が低いのみならず、離婚女性よりも低くなる。
結婚から得られる幸福には“賞味期限”がある。定期的なメンテナンス(維持・管理)が必要だ。
さとう・かずま 1982年生まれ。慶応義塾大学商学部卒。同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学、家族の経済学。明海大学経済学部専任講師を経て現職。著書に『日本・台湾の高学歴女性』(共著)など。
