とりわけ憂慮されるのは、医師や看護師など医療機関で働く人と、その家族に対するものだ。
親が看護師という理由で子どもの登園を見合わせるよう保育園から求められたり、病院職員だからと引っ越し作業を業者に断られたといった事例が報道されている。インターネット上でも医療従事者に対する中傷が後を絶たない。命懸けで職責を果たそうとしている人たちのことを思うと、残念でならない。
心ない言動が、医療従事者の離職や休診、診療の差し控えにつながる懸念もある。
政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長が22日の記者会見で、「病気に対して生じた偏見や差別が、さらに病気の人を生み出し、感染を拡大させるという負のスパイラルが起きてしまう」と警鐘を鳴らしたことは重要だ。
医療従事者以外にも影響が及んでいる。今月上旬、愛媛県の小学校が、新型コロナの感染拡大地域を往来するトラック運転手の子どもに自宅待機を求め、子どもは体調に問題がないにもかかわらず、始業式と入学式を欠席していたことが分かった。
これには、赤羽一嘉国土交通相(公明党)やトラックの業界団体から、物流の維持に尽力しているトラック運転手への偏見であると抗議する声が上がった。文部科学省は、社会機能を維持するために働く人や家族への差別や偏見を防ぐよう、都道府県教育委員会などに通知したが、しっかりと徹底してもらいたい。
感染リスクの高い人を排除するような空気が広がれば、体調を崩しても受診や検査を控えたり、感染の事実を周囲に隠そうとする人が増える恐れもある。これでは、感染の拡大を抑えることは難しくなるばかりだ。未知のウイルスに対する不安が偏見や差別を生んでいるとの指摘もある。しかし、かえって社会不安を広げるだけであることは言うまでもない。
何より大切なのは、私たちの命と暮らしを守ってくれている人たちに対し、敬意を忘れないことである。
