大津市議会議員 佐藤弘

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南鳥島レアアース、試掘結果が公表 ~期待の一方で見えてきた商業化への課題~

国際問題 産業 経済 / 2026年8月2日

南鳥島近海のレアアース泥をめぐり、今年1~2月に実施された採鉱システム接続試験の成分分析結果が公表されました。
中国が世界のレアアース供給を事実上握る中、「脱・中国依存」の切り札として注目されてきた南鳥島開発ですが、今回明らかになったのは期待と同時に、商業化に向けた高いハードルです。
本稿では、第一生命経済研究所が2026年7月24日に公表したレポート「南鳥島レアアース試掘結果公表」に基づき、試掘結果の内容と、今後の課題を整理します。

■ 試掘結果:中重希土類が過半を占める

今年1~2月に実施された南鳥島近海の採鉱システム接続試験では、揚泥されたレアアース泥の成分が分析されました。
その結果、レアアース総量の約53.9%が、イットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの「中重希土類」であることが判明しました。残る約46.1%はネオジムなどの「軽希土類」です。

元素・分類 割合
イットリウム(Y) 29.9%
ネオジム(Nd) 18.4%
その他軽希土 23.6%
プラセオジム(Pr) 4.1%
その他中重希土 14.5%
ガドリニウム(Gd) 4.9%
ジスプロシウム(Dy) 4.6%

(出所:国立研究開発法人海洋研究開発機構等、第一生命経済研究所レポートより

中重希土類は、EV用モーターなどに使われる永久磁石の製造に欠かせないジスプロシウムなどを含む一方、現在本格稼働している世界のレアアース鉱山では、中国以外での採掘量が極めて少ないという特徴があります。
参考として、世界の主要鉱山における中・重希土の産出比率を見ると、米国のマウンテンパスで1.3%、豪州のマウントウェルドで5.3%にとどまるのに対し、中国のシェンウー鉱山では45.6%に達しています(出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「レアアースの供給と課題」2024年6月27日)。
世界のレアアース生産に占める中国のシェアは約70%、精製では約90%とされており、中重希土類が中国に偏在していることが、中国依存からの脱却を難しくしてきた要因です。

今回、南鳥島近海に中重希土類が多く含まれることが裏付けられたことは、こうした構図を変えうる材料として評価されています。

■ 商業化への課題① ― 含有濃度が不明

一方で、レポートは商業化に向けた複数の課題を指摘しています。第一の課題は、レアアース泥にどの程度の濃度でレアアースが含まれているかが、今回は公表されていない点です。
元素ごとの成分割合は判明したものの、泥全体に対する含有量(濃度)は不明のままです。

参考値として、2016年(平成28年)に資源エネルギー庁が公表した「レアアース堆積物の資源ポテンシャル評価報告書」では、2013~2015年(平成25~27年)に採取された試料に基づき、高濃度分布域のレアアース品位の最高値が5,366ppm、平均品位が1,221ppmとされ、音響調査データを加味した概略資源量はレアアース酸化物量ベースで77万トンと算定されています。
この試算を参考にすれば、南鳥島近海では約42万トンの重希土類酸化物が生産可能という計算になりますが、レポートは「海底のレアアース泥を全て回収することは現実的に困難なため、実際の生産可能量はそれより少なくなる」と留保を付けています。

■ 商業化への課題② ― 採掘コスト・精製コストの両面が不透明

第二の課題は、コスト構造です。レポートによれば、採掘コストを左右する採算ラインは、レアアースの含有量が高いほど、また一日あたりの採掘量が多いほど低くなる性質があります。しかし前述の通り、今回の公表内容には含有濃度のデータが含まれていないため、南鳥島近海のレアアースの採掘コストは現時点で不明とされています。

さらに、レアアース酸化物の生産コストの大半を占めるのは精製コストであるとレポートは指摘しています。世界のレアアース精製に占める中国のシェアは90%を超えており、経済安全保障の観点から、米国・欧州・豪州などを中心に、中国以外での精製能力の引き上げが課題となっています。南鳥島近海のレアアース泥についても、脱水処理後に分離・精製・製錬までを国内または友好国内で行い、中国に依存しないサプライチェーンを構築することが求められる、とされています。

ここで一つ、資料には明記されていない論点として触れておきたいのは、精製プロセスに伴う環境負荷対応のコストです。レアアース精製は、放射性物質を含む残渣の処理や排水処理など、環境対策が大きな比重を占める工程とされます。中国がどの程度の環境対策コストをかけているかは本レポートでは触れられていませんが、日本国内で精製を行う場合、厳格な環境基準(大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法等)を遵守した設備投資・運用コストが必要になることは想定しておくべき論点です。
今回のレポートが示す「精製コストの大半を精製工程が占める」という構造を踏まえれば、国内で環境基準を満たしながら経済的に成立するコスト水準を実現できるかどうかは、今後の技術開発とコスト検証において注視すべきポイントと言えます。

■ 今後のスケジュール

レポートによれば、今後は2027年2月に約1か月間の本格的な採掘試験が実施される予定です。揚泥したレアアース泥は南鳥島で脱水処理された後、本土へ輸送し、分離・精製・製錬のプロセス試験が行われます。
さらに、人員輸送を含む産業的規模を見据えた本格オペレーションを通じてレアアース生産プロセスを検証したうえで、2028年3月までに国産レアアースの産業化に向けた総合評価を行う予定とされています。

■ 中国の輸出規制強化という外部環境

レポートは、中国政府がレアアースの軍事転用を理由に輸出規制を強化する動きを進めていることにも言及しています。一部のレアアースの輸出には、軍事利用目的でないことを書面で証明することが求められるようになり、審査に時間を要することで民生用の入荷遅延も生じているとされます。
日本においては、重希土類を中心に事実上の輸出停止状態にあるといい、2026年10月には供給網全般を対象とした輸出規制強化策が実行される可能性があるとされています(これは前年に打ち出されたものの、米国との協議により1年間延期されていた経緯があります)。
レポートは、中国がこうした政策を外交カードとして利用しており、政治的に価値観の異なる国ではレアアースの入手が困難になるリスクに直面していると指摘しています。

■ まとめ

項目 現状(レポート公表内容)
中重希土類の割合 総量の53.9%(イットリウム29.9%、ガドリニウム4.9%、ジスプロシウム4.6%等)
含有濃度(ppm等) 未公表・不明
採掘コスト 含有濃度が不明のため試算不可
精製コスト 精製工程が生産コストの大半を占めるが具体額は未公表
本格採掘試験 2027年2月予定
産業化に向けた総合評価 2028年3月まで
中国の輸出規制強化 2026年10月に供給網全般への規制強化の可能性

南鳥島近海のレアアースは、中国依存を軽減しうる資源として、コスト面以外でも戦略的な価値が大きいとレポートは結んでいます。しかし、実際に採算の合う形で商業化できるかどうかは、含有濃度の把握、採掘コストの算定、そして厳格な環境基準を満たしたうえでの精製体制の確立という、複数の課題をクリアする必要があります。今後のプロセス試験・総合評価の結果を注視していく必要があります。


【参考資料・出典】

  • 嶌峰義清「南鳥島レアアース試掘結果公表~中重希土類を豊富に含み、中国依存からの脱却に光明~」第一生命経済研究所 経済調査部(Global Trends、2026年7月24日発行)
  • 図表1「南鳥島近海から採掘されたレアアースの内訳(%)」出所:国立研究開発法人海洋研究開発機構等(上記レポートより引用)
  • 図表2「世界の主要レアアース鉱山の産出希土類(2023年)」出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「レアアースの供給と課題」(2024年6月27日)(上記レポートより引用)
  • 資源エネルギー庁「レアアース堆積物の資源ポテンシャル評価報告書」(2016年公表、2013~2015年調査分に基づく)(上記レポートより引用)

※本記事は第一生命経済研究所レポートの内容を基に作成しています。なお、日本国内での精製に伴う環境基準遵守コストに関する記述は、同レポートに明記された内容ではなく、レポートが示す「精製コストが生産コストの大半を占める」という構造を踏まえた論点提起です。

中東情勢が直撃・建設資材の高騰不足で何が起きているか【第二弾】~設備工事費の急騰と発注者・施主への緊急のお願い~

建設 生活 経済 / 2026年5月19日

前回の記事では、中東情勢を背景とした建設資材の高騰と不足の現状についてお伝えしました。多くの方にご覧いただき、ありがとうございました。
今回は「第二弾」として、特に深刻化している設備工事費の急騰と、民間事業者・施主の皆さまへの具体的なお願いについてお伝えします。


■ まず確認——建設コストは今どこまで上がっているのか

日本建設業連合会(日建連)が2026年5月に発表した最新資料(「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状〔四半期版〕2026年春版」)によると、建設資材物価は2021年3月と比較してこの5年間で37%上昇しています(一般財団法人建設物価調査会の推計)。

直近の2年間に絞ってみても、2024年3月比で7%上昇(建設総合平均)しており、特に土木部門では10%上昇と、上昇が止まらない状況が続いています。

主な品目の上昇率(直近2年間:2024年5月号→2026年5月号、東京)は以下のとおりです。

品目 上昇率(2年比較)
600Vビニル絶縁電線 IV 1.6mm単線 55%上昇
アルミ地金 43%上昇
ストレートアスファルト 29%上昇
生コンクリート 20%上昇

出典:一般財団法人建設物価調査会「建設物価」2024年5月号・2026年5月号掲載価格(東京)の比較


■ 労務費(職人さんの賃金)も急上昇

「公共工事設計労務単価(全国・単純平均)」は、この2年間で9.5%引き上げられ、全国全職種加重平均値が25,834円となり、初めて25,000円を超えました(2026年2月27日・国土交通省発表)。

また、国土交通大臣と日建連を含む建設関係4団体は、2026年の技能労働者の賃上げ目標を**「おおむね6%」**と申し合わせており、現場の人件費はさらに上昇する見込みです(国土交通省不動産・建設経済局建設業課長通知、2026年3月25日)。

材料費割合を50〜60%、労務費率を30%と仮定した場合、この2年間の資材高騰・労務費上昇の影響で、全建設コストは平均4.4〜5.1%上昇しています(土木部門5.8〜6.8%上昇、建築部門3.7〜4.3%上昇)。


■ 特に深刻——設備工事費の「別次元」の高騰

ここからが今回の本題です。設備工事(電気・空調・衛生・昇降機など)の費用上昇は、建設資材の平均的な指数をはるかに超えています。

日建連が大手建設会社12社を対象に調査した結果(2020年12月→2026年3月比較)では、特注品等の設備機器の価格上昇率は以下のとおりです(出典:「設備工事費上昇等の現状について 2026年春版」日建連発行)。

設備の種類 上昇率(約5年間) 物価調査会の汎用品指数との比較
空調機類(特注品) 111%上昇 物価調査会:約23%上昇
自動制御 126%上昇 物価調査会:約57.8%上昇
変電設備 71%上昇 物価調査会:数値なし
自家発電装置 94%上昇 物価調査会:数値なし
エレベーター(特注品) 98%上昇 物価調査会:数値なし
ダクト類 74%上昇 物価調査会:約23.8%上昇

※数値は大手建設会社12社(一部11社)の調査価格を平均したもの。個々の機器の値上がり状況を示すものではありません。

なぜこんなに高いのか? 主な理由は以下のとおりです。

  • 大規模建築物では特注品が多く、汎用品ベースの物価調査会指数に反映されない
  • 全国で工場・データセンター・大型再開発が同時進行し、設備工事の需給が極めてタイトになっている
  • **時間外労働の上限規制(2024年度適用)**により、追加経費が発生している
  • 遠方からの技能労働者の宿泊費・交通費など、現場経費も上昇している

■ 中東情勢が追い打ちをかけている

2026年4月24日時点(日建連会員ヒアリング)によると、中東情勢の影響により、建設資材・設備を問わず広範な品目で納期遅延・価格改定・受注停止が発生しています(出典:「中東情勢による建設資材の調達への影響について」日建連発行)。

特に深刻なのが、石油系素材を使った製品への影響です。防水材(アスファルト防水・ウレタン防水)、シーリング材、塗料・シンナー類、樹脂配管・樹脂バルブ、断熱材(スタイロフォーム等)など、内装・仕上・設備の幅広い分野で「価格改定・納期遅延・受注制約」が同時に発生しています。


■ エレベーターは「今すぐ発注しても2027年度以降」

昇降機(エレベーター)の需給ひっ迫は特に顕著です。同資料によると、首都圏の場合の対応可能時期は次のとおりです。

  • 15人乗りを超えるエレベーター(特注品):原則として2027年度以降着工(メーカーによっては2033年度以降)
  • 超高層建物用エレベーター(特注品):原則として2029年度以降着工(メーカーによっては2033年度以降)

今からご計画の建物に大型エレベーターが必要な場合、工期全体への影響を含めた早急な相談が不可欠です。


■ 発注者・施主の皆さまへ——今すぐ必要な対応

日建連は、民間事業者・施主の皆さまに対して、以下の点について理解と協力を求めています。

1. 設備工事費の適正な価格での発注を

上述のとおり、設備工事費は物価調査会の平均指数を大幅に上回っています。各建設会社から個別説明を受けた上で、実態に即した価格での発注をお願いします。

2. 早めの相談・発注を

設備協力会社はすでに多くの工事を抱えており、すぐに着工できる状態ではありません。少しでも早い段階での相談が、コスト増を抑え、適切な工期確保につながります。

3. 適正な工期の確保を

設備協力会社においても、建設業の時間外労働上限規制に対応した「4週8閉所(週休2日)」の取り組みが進んでいます。工期が短すぎる案件は受注を回避される傾向があります。余裕のある工期設定をお願いします。

4. 設計変更・着工時期変更はできるだけ避けて

設計段階での仕様変更、着工後の設計変更、着工時期の変更は、工期遵守の上で大きな負担・コスト増につながります。できる限り早期に仕様を確定させてください。


■ 国への対応策も求められている

こうした事態は、個々の発注者・施主と建設会社だけの問題ではありません。建設資材の安定供給確保、労務費の適正反映、工期・工費の適正化に向けた国レベルの政策対応も引き続き求められています。

現在、国土交通省においても建設資材の安定供給確保に向けた取り組みが進められていますが、中東情勢や円安、世界的な資源価格の高騰が続く中、さらなる対策の強化が必要です。


■ まとめ

項目 現状
建設資材物価(5年間) 37%上昇(建設総合平均)
建設資材物価(2年間) 7%上昇(建設総合平均)
公共工事設計労務単価(2年間) 9.5%引き上げ
全建設コスト(2年間) 4.4〜5.1%上昇(平均)
設備工事費(特注品・約5年間) 71〜126%上昇(品目による)
エレベーター着工可能時期(首都圏) 2027年度以降〜2033年度以降

建設工事を計画している事業者・施主の皆さまには、最新の建設コストの実態をご理解いただいた上で、早期相談・適正価格・適正工期での発注計画を立てていただくことが、今もっとも重要な対応策です。



【参考資料・出典】


この記事は上記資料をもとに作成しています。個別案件の工事費・工期については、必ず担当建設会社にご確認ください。

長寿社会の光と影:経済学者が語る、これからの「長生き」との向き合い方

生活 福祉 経済 高齢者 / 2026年1月8日

人生100年時代と言われる現代において、「長生き」は多くの人にとっての願いであり、社会全体の大きな変化でもあります。しかし、ただ単に寿命が延びれば良いというものでしょうか?

長寿社会には、光と影の両面が存在します。今回は、日本経済研究所が発表した「長生き」の価値に関する論考を参考に、経済学の視点からこれからの「長生き」との向き合い方について考えてみました。

長寿の恩恵:健康寿命の延伸と人生の可能性の拡大

多くの人が長生きを望むのは、その恩恵を享受したいからでしょう。健康寿命が延びれば、より長く活動的に社会と関わり、趣味や生きがいを見つける時間が増えます。

「長生き」の価値 | 一般財団法人 日本経済研究所 の記事では、「高齢者の健康状態が改善され、医療費の伸びが抑制される」「健康寿命の延伸は、余暇時間の充実や社会活動への参加など、個人の生活の質を高める」といった、長寿によるポジティブな側面が指摘されています。

長寿の課題:社会保障制度への影響と「長生きリスク」

しかし、長寿社会には課題も山積しています。特に顕著なのが、医療費や年金といった社会保障制度への影響です。人口が高齢化し、現役世代の負担が増加する構造は、持続可能性の観点から大きな問題です。

記事では、「医療費や介護費の増大、年金財政の悪化など、社会保障制度の持続可能性への懸念」が挙げられています。また、経済学の視点からは「長生きリスク」という言葉も注目されています。これは、経済的な備えが不十分なまま長生きすることで、老後の生活が困窮するリスクを指します。

「質の高い長生き」を実現するために

では、この長寿社会とどのように向き合えば良いのでしょうか? 単なる「長生き」ではなく、「質の高い長生き」を目指すことが重要です。

  • 健康寿命の延伸: 予防医療や健康的なライフスタイルの推進は、医療費の抑制にも繋がり、個人の生活の質も向上させます。

  • 社会参加の促進: 高齢者が社会と繋がり続け、その知識や経験を活かせる場を増やすことは、社会全体の活力維持に貢献します。

  • 経済的な備え: 年金制度への依存だけでなく、個人での資産形成や生涯にわたるキャリア形成が重要になります。

長寿は決してネガティブなものではありません。しかし、その「価値」を最大限に引き出し、同時に課題を克服するためには、社会全体で意識と行動を変えていく必要があります。経済学的な視点を取り入れながら、私たち一人ひとりが「長生き」の意味を問い直し、より良い未来を築いていくことが求められていると言えるでしょう。


 

MICEを成功へ導くカギ:データ収集の進化と地域連携の強化

AI生成機能 経済 観光 / 2025年11月14日

国土交通省観光庁が実施した「MICEに関するデータ収集・効果測定手法の向上」に関する調査事業の概要と、そこから見えてきたMICE(企業ミーティング・インセンティブ旅行)の現状と今後の展望について、動画で簡単にご紹介します。

(続)消費税と社会保障財源ー現状と課題

政治 社会保障 経済 / 2025年9月4日

参院選を前に消費税の時限的減税が議論されましたが、経済学者からは懐疑的な意見が多く見られます。引き続きこれらの声をまとめて見ました。

インフレ下での消費喚起は、供給力拡大が伴わない限り物価高をさらに悪化させる可能性があります。また、一度減税すると元に戻すには大きな政治的エネルギーが必要であり、社会保障の重要な財源である消費税の長期的な減収は、日本の厳しい財政状況を一層悪化させかねません。国債残高は1,000兆円を超え、市場からの信認が損なわれれば国債金利が急騰し、企業や家計にも悪影響を及ぼすリスクがあります。

社会保障の財源は主に社会保険料と公費(消費税を含む税金)で構成されています。消費税は、年金、医療、介護などの社会保障を支える重要な財源とされています。

日本は高齢化が進行しており、医療、年金、介護を含む社会保障給付費が増加しています。これに加えて、昨今では子育て支援に対する財政需要も高まっています。こうした背景から、社会保障の財源をどのように確保し、給付を抑制するかが大きな課題となっています。消費税の増税は、社会保障費の増加や財政悪化の「結果」として捉えるべきであり、2012年の消費税増税も、当時の与野党3党が合意した「社会保障と税の一体改革」の一環でした。

もし消費税による財源確保が困難であるならば、自己負担の引き上げか社会保険料の増額に頼らざるを得ず、それも避けたいのであれば、給付水準の見直しが必要となります。

参議院選挙などでは、多くの野党が消費税の減税を公約に掲げ、自民党も一律給付などの経済対策を打ち出しています。しかし、こうした政策は「減税ポピュリズム」と揶揄され、将来を見据えず選挙目当ての近視眼的な政策であるとの批判があります。

一般的に、世間では消費税が「諸悪の根源」のように思われがちで、国民の消費税に対する見方は極めて厳しいです。アンケート調査でも、「逆進的である」「景気に悪影響」という認識が広まっています。消費税の導入や税率引き上げは、議論の度に政府・与党が選挙での敗北など、国民の反発に直面してきました。経済学者の間では、消費税の一時的減税は不適切だとの意見が85%を占め、財政慎重論が圧倒的多数派です。これは、脱デフレによる税収増が一時的なタイムラグの結果であり、長期金利の上昇が財政赤字膨張への懸念を反映していると理解されているためです。

消費税の逆進性が問題視されることが多いですが、源泉徴収(天引き)で課税の実感が乏しい他の税に比べ、買い物の度に税負担を実感するという心理的抵抗も国民の強い反発の要因と考えられます。

いわゆる「減税ポピュリズム」の背景には、国民、特に勤労者の不満があります。資料では、勤労者の負担が重いのは消費税よりも社会保険料であると指摘されています。

株式会社政策メディア:

    ◦ 現役世代の不満が生んだポピュリズム: https://www.seisakumedia.com/news/2025/09/3.html

明治安田総合研究所:

    ◦ 政府不信が阻む子ども・子育て支援金への理解: https://tinyurl.com/4h5tvpjn

RIETI (独立行政法人経済産業研究所):

    ◦ 社会保障財源の課題と今後の在り方について (PDF資料): https://www.rieti.go.jp/jp/special/af/data/099_sato.pdf

    ◦ rietichannel (YouTube): 社会保障財源の課題と今後の在り方について(動画のチャンネル): https://www.youtube.com/@rietichannel

    ◦ RIETIのコラム・寄稿(佐藤主光フェローの執筆記事はこちらから参照できます): https://www.rieti.go.jp/jp/columns/

        ▪ いま必要な経済対策 生産力増・社会保険料軽減を

        ▪ 経済を見る眼 一律給付なら公金受取口座の普及を

        ▪ 経済を見る眼 消費税減税に断固反対せざるをえない理由

        ▪ 経済を見る眼 財政健全化へ「新ルール」を導入すべきときだ

「消費税減税」ー 専門家が示す、見過ごされている問題とは?

政治 経済 / 2025年9月2日

参議院選挙では「消費税減税」が大きな話題となり、SNSでは減税賛成の声が多数を占めたという印象を持つ方も多いかもしれません。

確かに一時的な負担軽減は魅力的に聞こえます。しかし、私たちはこの単純化された議論の裏側に潜む、重要な「見過ごされた論点」に目を向ける必要があります。

表面的な議論では語られにくい、消費税減税がもたらしかねない深刻な懸念点について「消費税減税より重要な給付付き税額控除や所得税⾒直し、投機筋にスキを⾒せない政策をー森信茂樹」からまとめてみました。

専門家が警鐘を鳴らす3つの懸念点

1. 社会保障財源の喪失と財政悪化のリスク

消費税は、高齢化が進む日本社会において、医療や介護といった社会保障制度を支えるための「安定した基幹財源」としての重要な役割を担っています。SNSなどでの議論では、消費税の税制上の意義や社会保障財源を失うことの問題点がほとんど語られませんでした。

• 安易な消費税減税は、この社会保障の基盤を揺るがし、制度の持続可能性に大きな影を落とします。

• 財源が伴わない減税は、将来世代への負担の先送りに他なりません。多くの経済専門家は消費税減税に反対の立場をとっていますが、その知見はSNSではまれにしか発信されません。

2. 市場からの警告と日本の信用失墜

「手取りが増える」という短期的な視点だけでは見えてこない、より深刻な問題が市場からの警告です。

• すでに日本の債券市場では、長期金利の指標となる10年物国債利回りが2008年10月以来17年ぶりの高水準に急騰しており、市場は将来の財政赤字拡大や税制規律の緩みに警鐘を鳴らしています。これは、政府の財政運営に対する信認が揺らいでいる証拠とも言えます。

• もし安易な消費税減税が実施されれば、日本国債の格付けが見直され(格下げ)、民間企業の資金調達や住宅ローン金利に大きな影響が及ぶ可能性があります。それだけでなく、国際的な投機筋の格好の「餌食」となり、日本経済に予測不能なリスクをもたらすことになりかねません。彼らに「スキ」を見せるような政策は絶対にとってはいけません。

• 最近の例では、英国の「トラスショック」があります。当時のトラス首相が大規模減税を打ち出したものの、その財源の大部分を国債発行で補う「財源なき減税」だったため、市場が直後から反応し、国債利回り急騰とポンドの急落を招きました。これによりトラス首相はわずか44日で辞任に追い込まれました。市場は「財政規律を無視した大規模減税がもたらす国債増発とインフレ加速のリスク」を懸念したのです。

3. SNS議論の限界と専門家の声の不在

SNSでの議論は、手軽で分かりやすい一方で、その特性上、極端な意見に傾きやすく、複雑な問題の本質が覆い隠されがちです。

• SNS上では、専門家の声が圧倒的に少数であり、政治的中立性を気にする中央官庁や官僚の声は全く反映されていません。

• また、フェイクニュースのチェックも十分とは言えず、国民全体で多角的な視点から政策のメリット・デメリットを議論する環境が十分ではありません。

中小企業に求められるDX推進と地域雇用のバランス

ICT活用 党活動 経済 / 2025年7月30日

本日(7月30日)、公明党政策要望懇談会が行われました。

公明党滋賀県本部からは、清水ひとみ代表、岩崎和也幹事長、濵奥修利幹事会会長、私佐藤弘代表代行。

加えて、公明党の国会議員、鰐淵洋子衆議院議員、杉久武参議院議委員、つかさ隆史参議院議員、石川博崇参議院議委員秘書らにも参加いただきました。

要望に参加いただいたのは、日本行政書士政治連盟滋賀県支部、滋賀県漁業協同組合連合会、滋賀県中小企業家同友会、滋賀県土地家屋調査士政治連盟の4団体。

★4団体の要望書

要望の意見交換会で特に印象に残ったのは、中小企業家同友会でした。

議論となったのは、DXやAIの導入による生産性向上と、それに伴う雇用の維持という二律背反とも言える課題です。同友会は、人手不足解消や賃上げのためにはAI化や機械化が不可欠であると認識している一方で 、「社長1人の大企業ばかりができて、地域の暮らしが成り立つのか」という問いを投げかけました 。中小企業は、高齢者、母子家庭、障害を持つ人々など、多様な人々の働く場を地域に提供することで、地域の暮らしを支えているという強い自負があります 。そのため、効率化を進めることでこれらの雇用が失われることへの懸念が表明されました

これらの解決には、地域の中小企業においては、効率化と地域雇用維持のバランスを取りながら、独自の発展を遂げていくことが期待されます。

減税で物価安になるとは限らない

経済 / 2025年7月17日

消費減税と物価問題

朝日新聞の記事を基に、消費減税が必ずしも物価安に繋がらないとされる経済的根拠を分析した。

◆消費減税が物価安に繋がらない根拠とメカニズム

消費減税は、一見すると消費者の負担を直接軽減し、物価を押し下げる効果があるように思われる。しかし、実際の市場メカニズムや企業の行動を詳細に分析すると、その効果は必ずしも期待通りには現れないことが示唆される。

A. 欧州の事例分析から見る減税の物価影響

特に注目すべきは、増税時は比較的スムーズに値上げが市場に浸透する傾向が見られたのに対し、減税時は、期待されるほどの値下がりが起こらず、むしろ価格が据え置かれるか、微減にとどまる傾向が顕著であった点である 。

消費税(付加価値税)は欧州で発祥し、多くの国で導入されているため、税率変更の事例が豊富に蓄積されている。米国の経済学者らが1996年から2015年の欧州における税率変更事例を分析した結果、税率変更分がそのまま最終的な商品・サービスの価格に完全に反映されることは稀であったことが明らかになっている 。

この価格調整の非対称性の背景には、企業の合理的な経済行動が深く関わっている。商品が店頭に並ぶまでには、原材料の調達、製造、物流、卸売、小売など、多くの企業がサプライチェーンに関与している 。消費税が減税された場合でも、サプライチェーン上の各企業は、税率が下がった分を最終消費者に価格として還元するのではなく、自身の売上や利益を確保、あるいは拡大しようとする誘因が働く。具体的には、消費税率が下がった分だけ「本体価格」(税抜き価格)を上げて調整することで、最終的な店頭価格は消費税減税分ほど下がらない、あるいは全く下がらない結果となることが指摘されている 。

この現象は、消費税率の変更が物価に与える影響が増税時と減税時で明確な非対称性を示すことを意味する。増税時は価格転嫁が比較的スムーズに行われる一方で、減税時は企業が利益確保のために「本体価格」を調整することで、減税の恩恵が消費者に十分に及ばず、物価の下落が抑制される傾向がある。これは、市場における価格の「下方硬直性」を示唆しており、価格が一度上がると下がりづらいという経済現象の一種と解釈できる。この非対称性は、消費減税を物価安対策として期待する政策の有効性に根本的な疑問を投げかけるものであり、もし政策の目的が消費者への価格還元であれば、この市場の特性を考慮しない限り、期待通りの効果は得られない可能性が高い。

B. 供給サイドの要因と市場の反応

消費税は、生産・流通の各段階で課税される多段階課税の性質を持つ。このため、減税の恩恵が最終消費者に届くまでに、サプライチェーン上の複数の企業が介在し、それぞれの段階で減税分が吸収されやすい構造にある 。京都大学の長谷川誠准教授(公共経済学)は、日本と欧州では商慣習などが異なるとしつつも、「減税しても、その恩恵がすべて消費者に届くという直感的なストーリーは成立しないかもしれない。その可能性をふまえて、減税の是非を判断すべきだ」と指摘しており、減税効果の波及経路の複雑性を示唆している 。

さらに、消費減税は消費者の実質購買力を高め、消費を刺激する効果が期待される。しかし、現在の日本経済が人手不足や生産性の課題を抱え、供給能力に制約がある中で、減税によって需要だけが先行して喚起された場合、かえって需要超過による物価上昇を招く可能性も指摘されている 。これは、減税が物価高対策として期待される効果が限定的であるだけでなく、場合によっては物価高を助長する「逆効果」を生み出すリスクをはらんでいることを意味する。

消費減税は、多段階課税の性質とサプライチェーンにおける企業の利益確保行動によって、その恩恵が最終消費者に届くまでに減衰する可能性が高い。加えて、現在の供給制約下で減税が消費を過度に刺激した場合、需要が供給を上回り、結果的に物価上昇を加速させる「デマンドプル型インフレ」を引き起こすリスクも存在する。このことは、消費減税が物価対策として期待される効果が限定的であるだけでなく、場合によっては物価高を助長する結果を生む可能性すらあることを示唆する。政策立案者は、単に減税すれば消費者が喜ぶという短絡的な思考ではなく、市場の複雑な反応と供給サイドの制約を考慮に入れた、より多角的な視点から政策を評価する必要がある。

一橋大学の佐藤主光教授(財政学)は、「減税しても、その恩恵がすべて消費者に届くという直感的なストーリーは成立しないかもしれない。その可能性をふまえて、減税の是非を判断すべきだ」と指摘している 。これは、消費者が減税分がそのまま価格に反映され、家計負担が軽減されると期待する「直感」が、実際の市場メカニズム、特に企業の価格設定行動とは異なる可能性を強調している。

C. 専門家の見解

佐藤教授はさらに、「政治はいまだにデフレマインドのままだ。インフレだという現状認識から始める必要がある」と強く提言している 。この発言は、長らくデフレに苦しんできた日本において、政策立案者が過去のデフレ期の思考様式から脱却し、現在のインフレ環境に即した新たな視点を持つことの重要性を示している。日本は「失われた30年」と呼ばれる長期間のデフレを経験し 、この間、政府や中央銀行はデフレ脱却と需要喚起に政策の主眼を置いてきた。この経験が、政策立案者の思考様式に深く根付いていると考えられる。しかし、現在は供給制約を伴う物価高に直面している状況である 。デフレ期には価格が下がることを期待して減税が行われるが、インフレ期には供給制約や企業の利益志向が強く、減税が価格に転嫁されにくい、あるいは需要刺激がさらなる物価上昇を招く可能性がある。

「消費税減税」による事業所や行政の「システム改修」問題

政治 経済 行政 / 2025年6月15日

物価高対策として聞こえの良い「消費税減税」。

消費税減税は、一見すると家計に優しい政策に思えます。しかしその裏では、社会を支える事業者や行政が「システム改修」という莫大なコストと手間に苦しむことになります。
特に、改修作業が短期間に集中すれば、IT技術者の不足や費用の高騰を招き、その負担は最終的に商品価格や行政サービスの低下という形で、私たち自身に跳ね返ってくる可能性があります。
税金の議論をするときは、税率の数字だけでなく、その裏側で社会が支払うことになる「手間のコスト」にも目を向けることが、より良い未来のために不可欠ではないでしょうか。

減税額の議論だけでは見えてこない、実務現場の問題

1. お店や会社(事業者)を襲う「システム改修」の現実

消費税率が変わると、商品を売る事業者には想像以上の負担がかかります。特に問題なのが、ITシステムの改修です。

ポイント①:レジも会計ソフトも、全部やり直し!

税率が1%でも変われば、全国のお店のレジ(POSシステム)や会社の会計ソフトを更新しなければなりません。

もし減税が「一時的」なもので、また税率が元に戻るとなれば、その都度、同じ作業とコストが2回発生することになります。

  • 影響: 会計システム、販売管理システム、POSレジなど、税率が関わるすべてのITシステム。
  • コスト: システム改修にかかる直接的な費用に加え、値札の貼り替えやメニュー表の印刷し直しといった物理的なコストも発生する。

ポイント②:インボイス制度で複雑化した現場に、さらなる追い打ち

2023年に始まったインボイス制度により、事業者の経理はすでに複雑化しています。

現在の8%と10%の複数税率の管理だけでも大変な中、もし「5%」や「0%」といった新しい税率が一時的にでも加われば、現場はさらに混乱します。

  • 請求書管理の複雑化: 税率ごとに金額を区分して記載する必要があり、一時的な税率が加わると請求書の発行や確認作業が非常に煩雑になる。
  • 経理処理の負担増: 税率変更の前後をまたぐ取引や、返品・値引きが発生した場合の処理は極めて複雑になり、ミスが起こりやすくなる。

2. 国や市役所(行政)も他人事ではない負担

消費税は、事業者だけでなく、税を徴収し行政サービスを運営する国や地方自治体にとっても無関係ではありません。

ポイント①:行政システムも、もちろん全面改修

国民から税金を集め、給付金を配る行政のシステムも、もちろん改修が必要です。消費税は地方の重要な財源でもあり、税率変更は自治体の財政運営システムに甚大な影響を与えます。

  • 影響範囲: 税計算、各種給付金の算定、手数料徴収など、自治体が運営する膨大な数のシステム。
  • コストの出所: システム改修にかかる莫大な費用は、言うまでもなく私たちが納めた税金から支出されます。

ポイント②:自治体は「システム標準化」の真っ最中で、余力ゼロ

現在、全国の自治体は、国の号令のもと「基幹業務システムの標準化」という非常に大きなプロジェクトに取り組んでいます。

これは、住民基本台帳などのシステムを国が定めた統一ルールに合わせるもので、多くの職員やITベンダーがこの対応に追われています。

現場の状況: ただでさえ大きな負担を強いられている中で、全システムに影響する税率変更という「緊急の横やり」が入れば、現場の混乱は必至です。

リスク: システム改修の遅延や、行政サービスの質の低下につながる恐れがある。

 

デジタル化セミナー補助金事業の視察

ICT活用 まちづくり 経済 議員活動 / 2023年9月26日

デジタル化セミナーの補助金事業における和邇商店会連盟の「第1回LINE実用化講習」を視察

講習終了後、参加者からは多彩な視点での質問が寄せられました。

今回が第1回目ということでしたが、次回の講習内容に関する意見も多く寄せられていました。

参加者の皆さんがLINEを活用しての商店街の活性化への真摯な取り組みを感じることができました。

この事業に参加する団体には、事業費に対して、上限30万円で10/10の補助率となっています。

商店街のこうした取り組みをはじめ、さらに様々な分野でDXが推進されることを期待しています!