南鳥島レアアース、試掘結果が公表 ~期待の一方で見えてきた商業化への課題~
南鳥島近海のレアアース泥をめぐり、今年1~2月に実施された採鉱システム接続試験の成分分析結果が公表されました。
中国が世界のレアアース供給を事実上握る中、「脱・中国依存」の切り札として注目されてきた南鳥島開発ですが、今回明らかになったのは期待と同時に、商業化に向けた高いハードルです。
本稿では、第一生命経済研究所が2026年7月24日に公表したレポート「南鳥島レアアース試掘結果公表」に基づき、試掘結果の内容と、今後の課題を整理します。

■ 試掘結果:中重希土類が過半を占める
今年1~2月に実施された南鳥島近海の採鉱システム接続試験では、揚泥されたレアアース泥の成分が分析されました。
その結果、レアアース総量の約53.9%が、イットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの「中重希土類」であることが判明しました。残る約46.1%はネオジムなどの「軽希土類」です。
| 元素・分類 | 割合 |
|---|---|
| イットリウム(Y) | 29.9% |
| ネオジム(Nd) | 18.4% |
| その他軽希土 | 23.6% |
| プラセオジム(Pr) | 4.1% |
| その他中重希土 | 14.5% |
| ガドリニウム(Gd) | 4.9% |
| ジスプロシウム(Dy) | 4.6% |
(出所:国立研究開発法人海洋研究開発機構等、第一生命経済研究所レポートより)
中重希土類は、EV用モーターなどに使われる永久磁石の製造に欠かせないジスプロシウムなどを含む一方、現在本格稼働している世界のレアアース鉱山では、中国以外での採掘量が極めて少ないという特徴があります。
参考として、世界の主要鉱山における中・重希土の産出比率を見ると、米国のマウンテンパスで1.3%、豪州のマウントウェルドで5.3%にとどまるのに対し、中国のシェンウー鉱山では45.6%に達しています(出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「レアアースの供給と課題」2024年6月27日)。
世界のレアアース生産に占める中国のシェアは約70%、精製では約90%とされており、中重希土類が中国に偏在していることが、中国依存からの脱却を難しくしてきた要因です。
今回、南鳥島近海に中重希土類が多く含まれることが裏付けられたことは、こうした構図を変えうる材料として評価されています。
■ 商業化への課題① ― 含有濃度が不明
一方で、レポートは商業化に向けた複数の課題を指摘しています。第一の課題は、レアアース泥にどの程度の濃度でレアアースが含まれているかが、今回は公表されていない点です。
元素ごとの成分割合は判明したものの、泥全体に対する含有量(濃度)は不明のままです。
参考値として、2016年(平成28年)に資源エネルギー庁が公表した「レアアース堆積物の資源ポテンシャル評価報告書」では、2013~2015年(平成25~27年)に採取された試料に基づき、高濃度分布域のレアアース品位の最高値が5,366ppm、平均品位が1,221ppmとされ、音響調査データを加味した概略資源量はレアアース酸化物量ベースで77万トンと算定されています。
この試算を参考にすれば、南鳥島近海では約42万トンの重希土類酸化物が生産可能という計算になりますが、レポートは「海底のレアアース泥を全て回収することは現実的に困難なため、実際の生産可能量はそれより少なくなる」と留保を付けています。
■ 商業化への課題② ― 採掘コスト・精製コストの両面が不透明
第二の課題は、コスト構造です。レポートによれば、採掘コストを左右する採算ラインは、レアアースの含有量が高いほど、また一日あたりの採掘量が多いほど低くなる性質があります。しかし前述の通り、今回の公表内容には含有濃度のデータが含まれていないため、南鳥島近海のレアアースの採掘コストは現時点で不明とされています。
さらに、レアアース酸化物の生産コストの大半を占めるのは精製コストであるとレポートは指摘しています。世界のレアアース精製に占める中国のシェアは90%を超えており、経済安全保障の観点から、米国・欧州・豪州などを中心に、中国以外での精製能力の引き上げが課題となっています。南鳥島近海のレアアース泥についても、脱水処理後に分離・精製・製錬までを国内または友好国内で行い、中国に依存しないサプライチェーンを構築することが求められる、とされています。
ここで一つ、資料には明記されていない論点として触れておきたいのは、精製プロセスに伴う環境負荷対応のコストです。レアアース精製は、放射性物質を含む残渣の処理や排水処理など、環境対策が大きな比重を占める工程とされます。中国がどの程度の環境対策コストをかけているかは本レポートでは触れられていませんが、日本国内で精製を行う場合、厳格な環境基準(大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法等)を遵守した設備投資・運用コストが必要になることは想定しておくべき論点です。
今回のレポートが示す「精製コストの大半を精製工程が占める」という構造を踏まえれば、国内で環境基準を満たしながら経済的に成立するコスト水準を実現できるかどうかは、今後の技術開発とコスト検証において注視すべきポイントと言えます。
■ 今後のスケジュール
レポートによれば、今後は2027年2月に約1か月間の本格的な採掘試験が実施される予定です。揚泥したレアアース泥は南鳥島で脱水処理された後、本土へ輸送し、分離・精製・製錬のプロセス試験が行われます。
さらに、人員輸送を含む産業的規模を見据えた本格オペレーションを通じてレアアース生産プロセスを検証したうえで、2028年3月までに国産レアアースの産業化に向けた総合評価を行う予定とされています。
■ 中国の輸出規制強化という外部環境
レポートは、中国政府がレアアースの軍事転用を理由に輸出規制を強化する動きを進めていることにも言及しています。一部のレアアースの輸出には、軍事利用目的でないことを書面で証明することが求められるようになり、審査に時間を要することで民生用の入荷遅延も生じているとされます。
日本においては、重希土類を中心に事実上の輸出停止状態にあるといい、2026年10月には供給網全般を対象とした輸出規制強化策が実行される可能性があるとされています(これは前年に打ち出されたものの、米国との協議により1年間延期されていた経緯があります)。
レポートは、中国がこうした政策を外交カードとして利用しており、政治的に価値観の異なる国ではレアアースの入手が困難になるリスクに直面していると指摘しています。
■ まとめ
| 項目 | 現状(レポート公表内容) |
|---|---|
| 中重希土類の割合 | 総量の53.9%(イットリウム29.9%、ガドリニウム4.9%、ジスプロシウム4.6%等) |
| 含有濃度(ppm等) | 未公表・不明 |
| 採掘コスト | 含有濃度が不明のため試算不可 |
| 精製コスト | 精製工程が生産コストの大半を占めるが具体額は未公表 |
| 本格採掘試験 | 2027年2月予定 |
| 産業化に向けた総合評価 | 2028年3月まで |
| 中国の輸出規制強化 | 2026年10月に供給網全般への規制強化の可能性 |
南鳥島近海のレアアースは、中国依存を軽減しうる資源として、コスト面以外でも戦略的な価値が大きいとレポートは結んでいます。しかし、実際に採算の合う形で商業化できるかどうかは、含有濃度の把握、採掘コストの算定、そして厳格な環境基準を満たしたうえでの精製体制の確立という、複数の課題をクリアする必要があります。今後のプロセス試験・総合評価の結果を注視していく必要があります。
【参考資料・出典】
- 嶌峰義清「南鳥島レアアース試掘結果公表~中重希土類を豊富に含み、中国依存からの脱却に光明~」第一生命経済研究所 経済調査部(Global Trends、2026年7月24日発行)
- 図表1「南鳥島近海から採掘されたレアアースの内訳(%)」出所:国立研究開発法人海洋研究開発機構等(上記レポートより引用)
- 図表2「世界の主要レアアース鉱山の産出希土類(2023年)」出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「レアアースの供給と課題」(2024年6月27日)(上記レポートより引用)
- 資源エネルギー庁「レアアース堆積物の資源ポテンシャル評価報告書」(2016年公表、2013~2015年調査分に基づく)(上記レポートより引用)
※本記事は第一生命経済研究所レポートの内容を基に作成しています。なお、日本国内での精製に伴う環境基準遵守コストに関する記述は、同レポートに明記された内容ではなく、レポートが示す「精製コストが生産コストの大半を占める」という構造を踏まえた論点提起です。






